撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

パズル恋愛小説

月と星

自分でも信じられない。あのひとといるときの私はどこか 普通の私と違う。駄々っ子のようにおねだりをした。自分が 男の人におねだりをするなんて、今まで考えてみたことも なかった。写真と一緒に指輪の型番を送りつけた。最初に 見つけたときにたずねて書…

三日月の指輪

ちいさな金色の指輪だった。流木が金色に変わったような、不思議な 質感の指輪だった。一目見て吸い寄せられるようだった。手にとって 指を通すと、左手の薬指にすっとおさまった。もうすこしでそのまま 連れて帰りたくなる衝動を抑えるのに必死だった。 あ…

その32 繋がる

暖かい部屋にあのひとといる。ぴったりと耳をつけてあのひとの 規則正しい鼓動を聴いている。変わらぬリズムがわたしのこころを 落ち着けてくれる。ここ、ここ、いまわたしはここにいるって、あの ひとの胸がわたしにそう言ってくれてるような気がした。 あ…

その31 みつめる

何度かの電話やメールのやりとりをした。今までしなかった話を した。わたしがその日は忙しいというと、今なにをしているの?と わたしの生活をきいてくれた。優しく切られるあのひとの電話の一瞬に あのひとの名残を感じるようになった。いままでわたしは、…

その30 目覚め

目覚めたくなかった。ずっと眠っていたかった。雨が降っている。気分が 重い。優しい思い出と、思い出したくない出来事が雨の音とともに、しのび こんでくる。何度眠って目覚めても、指先は冷たいままだった。 やっぱり今日もあのひとからのメールは来ていな…

その29 子猫

ほんとにお腹がすいて死にそうな気分でいる。何にもやる気が起きない。 何度も何度も、あのひとからのメールを見ては、約束の日にちと時間を確認 している。何もしないでいるには長すぎる。何かをするには短すぎる。約束 までに残された時間はそんな時間だ。…

その28 それだけで・・

この街にあのひとがいる。それだけでどうして街の景色が 変わるのだろう。どこかですれ違うかもしれない。それだけで 落ち着かないのはどうしてだろう。 さっさとリダイアルして電話口にあのひとを呼び出せばいいのに 今度はいったいどこで何の仕事をしてい…

その27 溢れる

とりあえず、人のいるところに行こうと思い立つ。ひとりで空を 見上げても、こころは凍るばかりだ。暖かい場所へ行こう。ひとの 体温を感じる店にいこう。アニキのとこしかない・・と夜の街を テンポをあげて歩く。ネオンが水面に滲む川にかかる橋を渡る。 …

その26  満足

深い、深い、満足は ちいさな覚悟と似ている もう二度と逢えなかったとしても この出逢いに感謝します・・・と あまりにひとりでいると心が波立たないことに不安を感じる。 少し前は、恋に焦がれる自分が鬱陶しかったのに・・! 空を見上げる。いつの間にか…

その25 はじまりは・・

はじまりはいつも静かだ。お互いを確かめるように見つめ合う。 いや、それはもう始まっているとき・・。隣りにすわって微かにお互いの 体温を感じる。周りにひとがいてもいなくても・・。ぎこちなく隣を 伺う。助手席に座っているときですら、いつあのひとの…

その24 わたしがいなくなったら・・

わたしがいなくなっても、あのひとは何も気づかない。焦がれて死んでも あのひとから逃げても、あのひとの前には「わたしがいなくなった」という 事実が横たわるだけだ。ずっとそう思っていた。あのひとと逢えなくなる ことはいつかきっと来るだろう。別れて…

その23 新しい幕

新しい一日を始めるのは、舞台に出ていくときのようだ。あの緊張と 興奮。どんなに見知った人たちとでも、一瞬のためらいと、多少なりの 勇気を胸に飛び込むようにして出ていく。 時折、幕が下りた気持ちになる。これで終わってしまった・・と 目の前が真っ…

その22 ひとり

夕闇のなか、ひとりだった。なんの予定もなく、かといって 明かりをつける家に帰るのもめんどくさくてとりあえず、飲みに でも行くことにした。橋の上で、川面に映るネオンを眺めながら 風に吹かれていた。ふふふ・・って笑えてきた。なんだ、ひとり でも歩…

その21 境界線

あのひとはわたしを見つめる。優しいような困ったような眼差しで。 くちびるは何かをいいたそうにしながらやっぱりやめたように閉じ られている。どうしたの?と訊ねたくなる。でも、わかっている。 何も話すことなどないのだ。訊ねるかわりにわたしはあのひ…

その20 香る

金木犀が開いた。実らなかった恋の香りがする。受け取って貰えなかった 手紙にしみ込ませた香水の匂い。あれから随分たったのに、その季節の 思い出を塗り替えてくれる人がいなかったことが寂しかった。 あのひとと秋の思い出をつくりたかったが、そんなに上…

その19 堕ちる

恋に堕ちたのはいつだろう? この心を恋だと認めたのはいつだろう? あのひとの腕の中でただ身を任せる。自分の知らない自分に出会う ほどにあのひとに身を任せる。それは、わたしにとって服従ではなく 解放だった。そう思えたのは、あのひとがわたしをこの…

その18 撫でる

ベッドに入り、頭を枕に埋める。あのひとの脇の下のくぼみにすっぽりと 頭をいれて眠ったことを思い出しながら・・・。背中に温かい気を感じる。 あのひとの腕の重さを想像しながら・・・。 寂しくもないのに、悲しくもないのに、ただ、涙が出ていた。ああ、…

その17 夢に見る

どこまでも走る夢を見た。信じられない早さで、脚を車輪に変え 背中に翼を持つように、自分で走っているのか乗り物に乗っているのか わからないのだけれど、絶対に起こり得ない早さで走っていた。 山を越える夢を見る。いつもは、途中までで道を見失い、力尽…

その16 翼

何も言えずに見つめていたら、あのひとはやさしくくちづけた。 そして、わたしの前歯の角っこを人差し指でなぞると、「これは、 ぼくのもの・・」と囁いた。ちょっと照れて笑いながら・・・。 「こんなこと言う奴ってめずらしい?」 あのひとがそういったよ…

その15 残るもの

いつか終わりがくるのだろうか。最初からそれを怖れている。最初 からではない。この恋がいままでの恋と違うと感じてからだ。 恋なんて同じだと思っていた。男の人なんて同じだと思っていた。 もう、いくつかの出会いと別れを経験して、全てを知ったような顔…

その14 奇跡

爪を立ててみた。愛してるって言われたとき、うそって眉を しかめるかわりに、うれしいって爪をたてた。声にはださなかった けど、心には行き場ができた。爪を立ててみて、わたし猫じゃない って思えた。血なんかにじまなかった。わたしはあのひとを傷つける…

その13 未来

ひとりで音楽を聴いていた。これは、あのひとと待ち合わせをしたときに 買ったCDだ・・とふと思い出した。それからしばらく、何処に行くときでも 車の中で聴いていた。ふたりで聴いたわけでもないのに、あのひととのこと ばかり思い出す。冬の匂いのし始める…

その12過ち

どうしてこんなことをしてしまったんだろう どうしようもなく後悔している。もう二度と逢えない。 逢いたくない。逢いたくない。逢いたくない。 二度と逢いたくない。 あの時間だけでよかったのに。あのときの我が儘だけで良かった のに。あのわたしだけで良…

その11 沈む

あの人は変わらない 始まりは静かで、終わりも優しい。 何度逢瀬を重ねようが変わらない。 あの人の腕の中にいる時、まるでふたりで舟遊ぶをしているようだ。 海の沖に浮かぶ、小舟。ふたりだけの空間。大きな波も、嵐もちっとも 怖くない。あの人の腕の中に…

その10 夢

あの人の夢を見た。見知らぬ土地で、あの人といる。 あの人が手をさしのべる。すぐ届く所にいるのに、手を伸ばせば、触れられる のに、私の手は動かない。どうしても動かない。そして、あの人も、それ以上 近づこうとしない。わたしの焦る気持ちとは裏腹に、…

その9 秘するが花

本当に大切なことは隠した方がいい。 本当の真実は語らない方がいい。 彼女の話をもっともだと思いながら聞いている。彼女は正しいことを 言っている。わたしも、いつもそう思っていることをしゃべっている。 彼女の話に、控えめに相槌を打ちながら、わたし…

その8 雨よ降れ

人生なんて、大袈裟に考えたことはないけれど、誰かが言ってた、「旅」 と言う言葉はこのごろわかるような気がしてきた。「人生は旅」だと。 あてのある旅は楽しい。連れのある旅も楽しい。でも、女友達で旅行に 行くとけっこういろいろ見えちゃってあとで気…

その7・・泣きたい

ひとはどうして泣くのだろう。涙を流すと、雨にうたれた草のような 気持ちになる。ぺちゃんこになって、ぐしゃぐしゃになって、それでも 落ち着くと、前より強くなってるような気がする。泣くところなんて人に みせるもんじゃない。テレビだって、本だって、…

その6 エピソード

昼間は人通りの多いこの交差点も、夜も更けたこの時間には、 渡る人もまばらだ。車さえ、時折通り過ぎるだけ。 「渡っちゃおうか!」点滅を始めた信号をみながら、二人で走る。 急ぐ理由なんてない。ただひとつあるとすれば、あの人がわたしの手を ひいたか…

その5 想いのながれるままに

恋に成熟なんてないんだろう。 おとなになったら、スマートな恋愛ができるなんて嘘だ。場数を 踏んでも、落ち着いて恋を楽しめるなんてありえない。 どちらがより多く愛してるなんてこだわるつもりはない。私と 仕事とどっちが大切なの?なんて質問をぶつけ…