撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

その13 未来

 ひとりで音楽を聴いていた。これは、あのひとと待ち合わせをしたときに
買ったCDだ・・とふと思い出した。それからしばらく、何処に行くときでも
車の中で聴いていた。ふたりで聴いたわけでもないのに、あのひととのこと
ばかり思い出す。冬の匂いのし始める頃から、春が終わる頃まで聴いていた。
・・あのひととのはじまりを思い出した・・・。


 けだるい南の島の空気を思わせる、そのなかの一曲。不意にあのひととの
約束を思い出した。
「いつか、ふたりでだれもいない南の島で時を過ごそう」


 ひさしぶりの涙だった。頭の痛くならない、ただの、なみだ。


 なんだ、わたしたちにも未来はあったんだ。いつか、はるか遠い未来に
約束を果たすことがあるだろうか?ふたりで交わした約束は、ふたりのもの。
どちらかがどちらかに与えるものではない。いつか、ふたりが思い出し、
それを望み、その時が巡り来れば、夢も叶えられるだろう。記憶から
消えない限り、その時はいつか来る。わたしがいなくなったとしても、あの
ひとがいなくなったとしても、約束を交わしたことは消えない。


どんな恋にも未来はあるのだ。