撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

三日月の指輪

 ちいさな金色の指輪だった。流木が金色に変わったような、不思議な
質感の指輪だった。一目見て吸い寄せられるようだった。手にとって
指を通すと、左手の薬指にすっとおさまった。もうすこしでそのまま
連れて帰りたくなる衝動を抑えるのに必死だった。


 あれからずっとあの指輪のことを考えている。あの指輪に出会った
のは、あのひとと逢ったあの日の帰り道・・。


 あのひとに逢えない時間の三日月は、気が狂いそうになるほどに
心細かった。男の人は満月でおかしくなるのかもしれないけれど
わたしは三日月でおかしくなる。見えなくなった月を待ちこがれた
果てにおかしくなる・・。


 あの日はあの人に逢えた日の三日月だった。その三日月を結んで
固めたような金色の指輪だった。


 いつかまたあのひとは私をおいていなくなる。ふくらむ月を見ながら
見えない月と、三日月を怖れているわたしがいる。


 あの指輪を手に入れることは、わたしにとって幸せなことだろうか
それともなおさら切ないことなんだろうか?写真を一枚・・という
あのひとの言葉をうれしく聞きながらも、わたしはときおり眺める
写真などではこの心は手に負えないと思っている。いつも寄り添える
何かを欲しがっている。指輪は、その役目を背負ってくれるだろうか?
それとも、手に入れた途端に、ただの冷たい金属になってしまうの
だろうか?