撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

その22 ひとり

 夕闇のなか、ひとりだった。なんの予定もなく、かといって
明かりをつける家に帰るのもめんどくさくてとりあえず、飲みに
でも行くことにした。橋の上で、川面に映るネオンを眺めながら
風に吹かれていた。ふふふ・・って笑えてきた。なんだ、ひとり
でも歩けるじゃない?昔乗っていた自転車に久しぶりに乗って
風を切って走っている気分だった。


 なじみの店で、グラスを空ける。頭の中で、不思議な形が
想像されてる。純愛とプラトニックの関係について・・。
あの人のことを恋しがっているのは、私の中の何処なんだろう?
あの人を思い出すとき、わたしはどうやって記憶をたぐり寄せる
のだろう?氷が溶けるように疑問がとければいいのに、グラスが
空くほど、頭の中はこんがらがっていくようだった。


 「大丈夫?」店のアニキが訊く。もう長いこと大好きなアニキだ。
うんうん、と言いながら彼の手に触りたいのを我慢していた。ああ
これが、プラトニックと純愛が重なってる部分だ・・ってわたしの
頭が考える。あのひととは違う。あのひとにはわたしのすべてを
抱きしめて欲しい。純愛とプラトニックと、あと好きな色で塗り
たくった、そのまわり全部だ・・・。わたしのからだの真ん中から
声にならない声が、そう叫ぶ。