撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

その9 秘するが花

 本当に大切なことは隠した方がいい。
 本当の真実は語らない方がいい。


 彼女の話をもっともだと思いながら聞いている。彼女は正しいことを
言っている。わたしも、いつもそう思っていることをしゃべっている。
彼女の話に、控えめに相槌を打ちながら、わたしの視線は、ただ彼女の
口元を漂っている。


 ・・嫌なおんなだ・・・。


 自分の心の動きにはっとしたわたしと、ふてぶてしく落ち着いている
わたしがいた。そうして、それはたぶん、ひたむきに伝えようとしても、
ひとの目にはこんな風に映るんだ、と気付かされた、驚きと、忌々しさ
だったのだ。


 本当に大切なことは隠した方がいい。ひとに見せびらかさなければ満足
できないようなものは、持たなくてもいい。ただ、自分の心と、ときには、
それに心動かされて気付いてくれたごく希少なひととで、愛でればいい。
欲しいものは、多くない。
 どんな宝物も、ひとに見せられた時には、それは、手垢のついたその人の
所有物にしか見えない。そんなものに興味はない。


 真実は、説明できるものでも、理解できるものでもなく、ただそこに
存在するだけだと気付いたから。それが、あのひとと出会ってから唯一
わたしが賢くなったことだ。それだけだ。


 わたしが本当に欲しいものは・・・。