撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

その19 堕ちる

 恋に堕ちたのはいつだろう?
 この心を恋だと認めたのはいつだろう?


 あのひとの腕の中でただ身を任せる。自分の知らない自分に出会う
ほどにあのひとに身を任せる。それは、わたしにとって服従ではなく
解放だった。そう思えたのは、あのひとがわたしをこの上なく大切に
してくれるようになったから・・。はじまりはどうだったかわからない。
 わたしは、あのひとの大切なお人形だったのかもしれない。自分の
宝物を扱うようにわたしを扱っていたような気がする。その瞳の輝きが
本当のわたしを映していないように見えてわたしは苦しんでいたのだ。


 あのひとの胸に涙をこぼし、あのひとの背中に爪をたて、わたしは
人形でいることをやめた。猫になることもやめた。わたしはひとりの
女だ。ひとりの人間だ。ときどきあのひとのこどもになるけれど、本当は
大人のおんなだ。すべてを忘れて、すべてを捨ててあのひとの前に
立ちたいと願ったとしても、この私を捨てる必要はないのだとわかった
から・・・。


 あのひとの気持ちはあのひとにしかわからない。今愛し合っているから
といって、明日も愛してくれと要求できるわけはない。それでも、私は
今、恋に堕ちていると微笑んで認めよう。自分のこころのままに・・・
だれのせいでも責任でもなく、自分で自分を支える自信ができたからこそ
そう、静かに言おう。だれのためでも、あのひとのためでもなく、ただ
わたしのためにここにそう書き記しておこう。