撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

その24 わたしがいなくなったら・・

 わたしがいなくなっても、あのひとは何も気づかない。焦がれて死んでも
あのひとから逃げても、あのひとの前には「わたしがいなくなった」という
事実が横たわるだけだ。ずっとそう思っていた。あのひとと逢えなくなる
ことはいつかきっと来るだろう。別れても別れなくても、いつか絶対来る
ことは、誰の上にも等しく訪れる、運命というものだ。


 最期の時に、わたしはだれの眼差しを受けるのだろう?誰かがわたしの
手をとってくれるのだろうか?それまでにわたしはいったいどんな人生を
送るのだろう?いま、心に持つこの想いはそのときも宿っているのだろうか?


 愛している・・と囁いた言葉はどこに行くのだろう?それまでの恋のように
誰かに話したりしたことは一度もない。なにがどうちがうのかは説明できない
けれど、決して口にすまいと思ってきた。口にしたとたんに、それは色を
失い、かたちを無くし、変質してしまいそうな気がしたから・・。誰に
言わなくても、心に撮し、体に刻み、記憶に焼き付けている。死んで焼かれた
そのあとに、そのことだけがすべてを物語るように残るのではないかと
怖れるほどに・・・。だから、今は死ねない。せめて、すべて煙とともに
空に登っていくほどに、この心が透き通っていくまでは・・。