撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

パズル恋愛小説

 眠り

真夜中に目覚める 暗闇に目が慣れるまでじっとしている 目が慣れたからといって動く必要もなにをする必要もないのだけれど 夢を見ていたような気がする 今の今までその夢を覚えていたはずなのに どんな夢だったか思い出そうとすると ふわふわとさらさらとか…

思い出

シャンパンの栓を開けると立ち上る微かな音と匂いが はるか遠くにかすむ思い出をよみがえらせる 背中を辿る指の感触も 素肌が触れ合う温度と湿度も 腕のくぼみに頭をのせた時の首の角度も 手を握られたときの包まれる感じも 多分一瞬で私の体によみがえる 懐…

 雨音

初めてふたりでドライブしたのは海だった それからしばらく ふたりの時間をお互いに差し出しながら何度も会った お茶を飲んだり お昼を食べたり 美術館を覗いたり その時によって晴れたり降ったり どんな天気でも会えるだけで良かった それがいつしか雨が嫌…

 変わり目

季節が変わるときには懐かしい風が吹く 初めてなのに知っている気がする そんな不思議な懐かしさ しかしながら今年の季節の変わり目ははっきりとせず 秋を通り越していつのまにか冬にはいっているような・・ そんなことでだれにも言えない不機嫌な気分をいく…

花火

このレストランから観る花火は格別だろうね そのときはドレスコード浴衣でもいいのかな? いつか いつかその日にふたりでいたいね そう言っていたフレンチレストランが もうすぐ幕を下ろすらしい 理由は建物の老朽化のため 脂の乗り切ったシェフと 繊細な心…

奇跡

奇跡を起こす と言ったひとに あなたならできる と言った日のことを思い出した 心細いほどに微かに光っていた三日月が、今日は少しふくらんでいた きっともうすぐ逢える 化粧水をはたいただけの頬が今夜はしっとりと冷たく潤っている そこに手を添えるとあの…

誘(いざな)い

急に春めいた日があって 初夏が恋しくなった 桜もまだだというのに 日差しが夏を思い出させるから 少し前にショーウィンドウで見かけたけれど まだ早すぎると思ったワンピースを買った なにがまだ早すぎるの? だって夏はおろか春の計画すら立っていなかった…

風穴

時折あのひとはわたしのからだを念入りに調べる それは自分の楽しみのためだったり ふたりのあたらしい遊びだったり 時にはわたしのご機嫌をとるためだったりする 爪先からかかと くるぶしからひざへと そしてあのひとの伸ばした指先がわたしの視線に入るこ…

旅ごころ

晴れた日はどこまでも高く青空が続くくせに 曇った日には天井が低くなったように薄暗い 冬って私より自分勝手な気がする 雨は降りそうにない、でも青空は出そうにないこんな日 とりとめもないことを考えるのにちょうどいい日 北の国では10時過ぎに陽がのぼっ…

細胞

どこで聞いた話だったか ひとの細胞は日々入れ替わり生まれ変わり 2カ月たつときれいにあたらしくなってしまうとか・・ だとしたら ひと夜の夢はふたつきで綺麗に覚め ひと月の逢瀬は満月を二たび、三たび見上げるあたりで ようやく平常心を取り戻すというと…

センチメンタル

あのひとの声に慣れる あのひとの指が馴染む あのひとの遣う言葉の意味がよく分かるようになる 一緒にいるといつの間にかとなりにいるのが普通になって 逢えない日にはなにか忘れ物をしたような気分になる そんな日々にふと心に兆すもの 明るい空色の上にひ…

リアル

耳元であのひとが呟こうとする 言葉が言葉になる前にその温もりを感じて もう何を言おうとしているのか伝わってくる 「逢うまで言わないでおこうと思ったんだ こうしてあなたに直接伝えたかったんだ」 逢えない時の言葉は宙を彷徨い その熱がなおさら空々し…

会話

あなたがわたしを確かめる わたしがここに確かにいることを ふたりがここにこうしていることを 眼差しで、指先で、ぬくもりで、並ぶ呼吸と鼓動で・・・ 夢をみているような 水のなかに浮かんでいるような 風に吹かれているような 不思議に懐かしい気持ちで漂…

切ない

時間がゆっくりと流れる いつのまにかすこしだけうとうとしていた自分に気づいて慌てて部屋を見回した よかった なにひとつ変わっていなかった あの人の寝顔が隣にある 今日は眉間のしわも消えて子どもみたいな顔で眠っている 静かにからだの向きを変えて少…

呼吸

しばらくあのひとと逢えない日が続く 日常に何の支障があるわけではないのだけれど こころの奥のほうがすこしだけカサカサと音を立てているような気がする そんな自分もまたなんとなく腹立たしくて 土曜日には部屋の中をひっくり返して大掃除をした 春だとい…

つづくこと

さっきからわたしはテーブルの下でハイヒールを半分脱いで足をぶらんぶらんさせている ここはとあるアイリッシュバー 友達とくるときは入り口近くの半分立ち飲みのようなカウンターで ギネスの泡の上に綺麗な模様が描かれるのを覗きこむように座っているのだ…

最期のときを想うとき

ふたり並んで寝そべって とりとめのない話をする 以前、南の島に行こうって話したよね うん覚えてる ヨーロッパも行きたい パリもいきたいし、ローマにも行きたいから うん、いつか行こう 一緒に世界一周したい 世界一周?それってどれくらい? どれくらいだ…

ふたりを知っているひと

ほどなくして、あの人から連絡があった しばらくゆっくりできるから好きなところへ行けるよと 前回の旅の幕切れが理想通りでなかった私としては素直になれない気分で 携帯を頬にあててうつむいたままだった いままでのあのひとだとそんなときにはちょっと困…

楽しい時間

あれからあのひととは会っていない 仕事なのか旅なのか知らないけれど、電話もメールもすぐの役には立ちはしなくて、 生きていることだけをお互いに確認しあう程度の日々が続いた もうこちらから連絡するのは嫌になるからしないことに決めた すると向こうか…

旅の終わり

旅の朝はいい 何もかもが前の日から自堕落なまま放りだされているのも いっそ潔いほどにいい 食べ疲れて乾いてしまったチーズやら グラスの氷が溶けてしまったけだるい水やら ワイングラスに名残だけのこるルージュの影やら バスタブで幸福の余韻に使ってい…

旅の続き

チェックインをあなたに任せて窓から見えるヨットを眺めている。こんなところに 自分の船を停めているひとはどんな人なんだろうとは思うけれど、別にそれを羨ましい とは思わない。それよりも今日のこれからの時間への期待が大きいから。 海に向かって立つそ…

久しぶりに逢えるから旅に出ようとあなたが言う。小さな小さな 日常を抜け出す旅。 海を渡る。自転車や小学生と一緒に船に乗り込む。フェリーと呼ぶ には微笑みがこぼれる渡船。さっきふたりで通ったホテルが小さく なる。あなたがわたしの写真を撮ろうとす…

なつかしい胸

星が再び巡り合うことはあるのだと知った。星ではなく、わたしとあのひとのことでは あるのだけれど・・。ずいぶん久しぶりだねとあのひとが言う。ええ、元気にしていた? と、わたしが問う。ああ、君がいないことを除けばおおむね順調。でも何となく物足り …

月の光

いま、わたしはひとりでいる。自分の場所にいる。月は満ちては欠ける。 そう、満ちては欠けて、姿を隠しては、また明るく、冷たく、輝く。 ふと空を見上げると、下弦の月が子を孕むように膨らんでいた。ああ もうそんなに長いこと見上げていなかったのか・・…

思い出

あのひとに何度抱かれただろう。心が寄り添う前にもうあのひとは わたしを引き寄せ抱き寄せた。まるでそうなることが決まっているかの ように、あのひとはわたしを抱きしめた。初めてふたりきりになったとき に「ずっとこうしたかったんだ」と抱きしめられた…

メビウスの帯

手を繋いで歩いた。冷たい風が頬を凍らすけれど、繋いだ掌だけ灯りが 灯ったようにぽっと暖かかった。あの人はやっぱり何もきかなかった。それ でも、それは今のわたしにとっては心地よいことだった。 何度も何度も繰り返す。不安と満足を・・。出逢っただけ…

空を見上げる

何度も気づく。わたしの心は私にしかわからない。あのひとの心が あのひとにしかわからないように。それは、かなしいことでも幸せな ことでもない。あたりまえのただの真実だ。 あのひとの胸からようやく顔を離してふと空を見上げた。泣くのは おしまいにし…

大丈夫・・

目覚めると日が高かった。あんなに悩んでいたのにいつの間にか 眠っていた自分がおかしかった。夢もあれからみていない。こんな 風に眠れるのなら、あのひととまた逢えるまでずっと眠っていられたら いいのに・・などど、もうあのひとのことを考えている自分…

夢を叶える

夢は必ず叶う・・とあのひとはつぶやく。強く願い続ければ、必ず 手に入るんだ・・とわたしに短いキスをした。そんなあのひとの瞳が 輝くのを見るのがまぶしくて好きだった。わたしの願いはいったい何 だったんだろう? 私を見つめるあのひとの瞳が輝くと、…

レッスン

予感はあるとしても、今、この場所で、突然に命がこときれるのと、 あと何ヶ月の命です・・と宣告されるのといったいどちらが幸せなの だろう?別れがあると分かっているのなら、今以上の現実をおくることが できるのだろうか? 出会いと別れは数限りなく繰…