撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

その31 みつめる

 何度かの電話やメールのやりとりをした。今までしなかった話を
した。わたしがその日は忙しいというと、今なにをしているの?と
わたしの生活をきいてくれた。優しく切られるあのひとの電話の一瞬に
あのひとの名残を感じるようになった。いままでわたしは、甘えることと
突き放すことと、意地を張ることしかしてこなかったような気がする。
あのひとのやさしい顔も、困った顔も、どちらも私を安心させては
くれなかった。何に怯えていたのだろう?


 待ち合わせの場所にいた。暗くなった空を見上げながら、空の
繋がっている先を思っていた。ふと背中が暖かい。振り向くと、私を
みつめるあのひとが立っていた。じっとみつめる。こんな風にいつも
あのひとはわたしをみつめていてくれたんだ。わたしが気づく前から、
わたしが笑う顔も怒る顔も、何も言わずにずっと見ていてくれたんだ。
そして抱きしめる。


 いつも小さく折り畳んであのひとの胸の中にあずけていた両腕を
おそるおそる翼を広げるように伸ばしてみる。空に向かってひろげ、
そしてあのひとの首にまわしあのひとをつかまえる。あのひとの顎の
下に頭を押しつけて、あのひとの胸の奥底につぶやくように囁く。
「あなたが好き」・・・ずっと伝えたかったのに、いままでずっと
言えなかったんだ・・・。