撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

月と星

 自分でも信じられない。あのひとといるときの私はどこか
普通の私と違う。駄々っ子のようにおねだりをした。自分が
男の人におねだりをするなんて、今まで考えてみたことも
なかった。写真と一緒に指輪の型番を送りつけた。最初に
見つけたときにたずねて書き留めておいたものだ。写真と
交換にしてはずいぶんかわいげのないものに違いない。充分
承知の上だ。こんなこと、今まで誰にもしたことない。


 別れ際に唐突に渡された小さな紙包み。開くとそのとおりの
指輪が入っていた。なんだかきまりが悪かった。必死で言い訳を
したあとの子供みたいに、どんな顔をしてたらいいのかわからな
かった。わたしのぎこちないありがとうをあのひとはどんな気持ちで
聞いたのだろう?でも、後になって思うと、あのひともまるで
宿題を提出する子供のような顔をしていたような気がする・・。


 ひとりになって薬指にはめる。久しぶりの本物の指輪・・・。
何が本物なんだか知らないけれど、そんなことを考えてみる。
そういえば、10代のおわりがけ、指輪をもらったことがあった
なあ・・なんて、忘れていたことを思い出す。恋が終わったら
すべてをリセットしていた頃。あの指輪は海に放り投げたんだっけ
それとも土に埋めたんだったっけ・・。


 これは・・多分一生持っておく。この恋がどんなことになろうとも
この指輪は死ぬまで手離さない。あのひとの記憶は消えない。たとえ
あのひとが私を忘れることがあったとしても、わたしの心と身体は
あのひとを忘れないだろう。


 金色の指輪にちいさな輝きを見つけた。小さな小さな石がひとつ
填め込んである。三日月に寄り添う、ちいさな星。これはわたし?
あのひとに抱かれて紅く輝くちいさな星・・。月も、星も、誰に
見られることがなくても、探しても見えないことがあっても、いつも
そこにあるのだ。愛おしくて、自分の手のひらにくちづけした。
あのひとの匂いがした気がした・・・。