撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

パズル恋愛小説/第二章

闇がふうわりと薄くなっていく 空気が煌めきの予感を孕んで動いていく 手のひらが熱い 肩先から胸元へその熱を映す様にすべらせる 凝り固まっていたものが解けていく ちいさな痛みを伴って 頭の芯がくらくらする 闇の中にちいさな花火が幾千も弾ける からだ…

 葉

この部屋には郵便は届かない この部屋では電話も鳴らない かろうじて時計は掛けてあるけれど それは小さな時計で時間を区切られたくないから 大まかなスケジュールを立てるためにだけある 昼間にちかくの公園に出掛けた 立ち並ぶ銀杏の樹が色を変えつつあっ…

 器

土踏まずから足の甲へ向かって ちらちらと温かいものが動くのを感じて目覚めた 遮光カーテンの隙間から高くなった日差しが差し込んでいる カーテンのすぐそばで半分うつぶせになりながらあなたが眠っている 眉間のしわが消えきっていないのはまだ疲れている…

 鞄

南向きの陽の入るリビングとそれに続く和室のスペース それとは別にバスルームと向き合った洋室がひとつある 洋室の片側はクローゼットになっているがほとんど何もない ただひとつ 古い形のしっかりとした皮のトランクが置かれている 箱型の固い、そしてぱっ…

 港

やっと帰って来たね うん やっと帰って来たよ どちらがどちらのことを言っているのか分からない 待っていたのはどちらなのか 帰って来たのはどちらなのか それともふたりともがここへと帰って来たのか 夜中に目を覚ますととなりにあなたの寝息があった 眠り…

 風

ゆっくりと扉を開けて部屋の中へと入る あなたは後ろ手で扉を閉め安堵の溜息をつく その顔がまるでいたずら小僧のように見えてクスリと笑えた だってさ・・と何を言われたわけでもないのに あなたが弁解するように唇をとがらせて見せる なあに?とその続きを…

 鍵

日は高くなって外はもう眩しい光でいっぱいなのだろうけれど いまはまだもうしばらくそのままにして 閉じたカーテンの隙間から漏れる昼近くの太陽が ふたりのつま先あたりに細い線を描いているそれだけにしておこう 昨夜はリビングで寝た 久しぶりの逢瀬は空…