撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

なつかしい胸

 星が再び巡り合うことはあるのだと知った。星ではなく、わたしとあのひとのことでは
あるのだけれど・・。ずいぶん久しぶりだねとあのひとが言う。ええ、元気にしていた?
と、わたしが問う。ああ、君がいないことを除けばおおむね順調。でも何となく物足り
なくて時々不機嫌になっていたんだ・・そんなあのひとの言葉を軽くにらみながら聞ける
ほどにはわたしも大人になったような気がした。


 なのに・・あのひとに抱かれて、すべてをほどかれるように素のままにさせられた
時、わたしに起こったことは悲しくもないのに涙があふれたことだった。そして、
その涙に後押しされるように、わたしはあのひとの胸に顔を埋めて「淋しかった」と
泣きじゃくったのだった。帰ってきた・・と思った。それはあのひとがわたしのもとへ
帰ってきたのか、わたしがあのひとのところへ帰ってきたのかわからない。ただ、
「なつかしい」と、まだ涙の残る鼻の奥がそう感じていたのだった。 


 初めてふたりきりになってあのひとに抱き寄せられた時、わたしは
まるでひな鳥だった。なにも見えなくなっても構わない。きつく抱きし
められても怖くない。あのひとはわたしを束縛するかわりにわたしを
守ってくれていた。束縛・・といってもそれはほんのひととき・・逢っ
っている間だけのことだったけれど・・・。


 いや・・束縛ではない。あのひとに抱きすくめられるとわたしは
動けなくなるのだ。動けなくなってもいいほどにすべてをあのひとに
まかせたくなる。生まれたばかりの赤ん坊のように・・。何も知らない
赤ん坊がひとつひとつ新しいことに出会うように、いつも初めから始ま
る。そして時を駆け抜けるように、少女になり女になり・・思い出を
懐かしむひとになる・・・。


 いつもあのひとの胸は懐かしい。いま思えば、ただひとつだけ不思議
なことは、初めてのときもそう思ったこと。いったいあの感情はどこか
ら湧いてきたのだろう?予感だったのだろうか?それともわたしが求め
ていたものをあのひとは持っていたのだろうか?


 わたしが欲しかったもの・・わたしがずっと欲しがっているもの・・
それは安心して泣ける場所。ただただ、泣くことをゆるして受け容れて
くれる存在・・・。泣くことに意味などありはしない。泣かせてくれな
いことがゆるせないだけ。わたしの望むものはそれだけなのだ・・と
分かってくれる人はいそうでいなかったのだ。


 偶然が星を巡り合わせる。しかしながらそれはどこか強い力で引かれ合っている
からこそ巡り合うことができるのだ。