撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

風穴

時折あのひとはわたしのからだを念入りに調べる
それは自分の楽しみのためだったり
ふたりのあたらしい遊びだったり
時にはわたしのご機嫌をとるためだったりする


爪先からかかと
くるぶしからひざへと
そしてあのひとの伸ばした指先がわたしの視線に入るころには
いつもならもう抱き合っているのだけれど
今日のわたしはくるりと背を向けて顔をシーツに埋めている


背骨の数をかぞえながら
あのひとは背中にある羽を一枚ずつ撫でて整えていくかのように
わたしの肌に指をすべらせていく
あるはずもない羽根の先がふるふると揺れる気がした
埋もれて真っ暗なまぶたの裏になにか明滅する気がする
なに?
肩へ、首へ、ゆったりと温かい感触がつながる
まぶたの奥にすこしずつ景色が見えてくる


暗いなかに一点、ちらちらと輝くひかり
それはしこった森の葉の向こうに見える青空のようにも
煙突のなかから空を見上げているようにも見える
そして
その青空は次第に広がっていく
タイル一枚分の青が2枚、4枚、そして・・・


そのとき知らずわたしの呼吸が乱れる
く、くくく、くく・・・
嗚咽!


どうして泣きたくなるの?
どうしてしゃくりあげてしまうの?
まぶたの奥に広がる青はどんどん広がっていく
ああ、風穴が開いた
塞がっていたこころとからだが道をもらって動き出した


・・・


ふたり並んで天井を見つめながら会話を交わす
あたしね
あなたに抱かれるとかみさまの前に立った時と同じ感触がする
そういうとあなたは言った
そうなんだ
ぼくはね、宇宙の中にいる気がするよ


ふふふとふたりで笑って指を絡ませる


あとはもう黙って目を閉じる
見えるわけではないけど、青空と風を感じている