撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

センチメンタル

あのひとの声に慣れる
あのひとの指が馴染む
あのひとの遣う言葉の意味がよく分かるようになる


一緒にいるといつの間にかとなりにいるのが普通になって
逢えない日にはなにか忘れ物をしたような気分になる


そんな日々にふと心に兆すもの
明るい空色の上にひと刷け塗られたすこしだけ翳りのある色み
ふたりでいる幸せのうえに少しだけ顕われるふとした想い
・・ちいさなセンチメンタル


ほどいた指先に風が吹くとき
閉じた車のドアの音
メールの結びの言葉の端
森の上にかかった細い三日月


何を怖れることもないのに
約束は緩やかな時の流れの間にあるのに
ふとあのひとの無事を祈るような気持ちになる
そしてまた自分の無事をお願いしたくなる


ひとは出会いと別れを繰り返す
もういちど出会えるという確証はどこにもない
ふたりでいるとそのことを強く思い知らされるのだ


またね、とほどいた指先にセンチメンタルが絡みついているような気がするのは
そのさりげない言葉にどれだけの想いが込められているか
ようやく分かり始めたからかもしれない