撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

夢を叶える

 夢は必ず叶う・・とあのひとはつぶやく。強く願い続ければ、必ず
手に入るんだ・・とわたしに短いキスをした。そんなあのひとの瞳が
輝くのを見るのがまぶしくて好きだった。わたしの願いはいったい何
だったんだろう?


 私を見つめるあのひとの瞳が輝くと、自分があのひとの夢の欠片の
ように思えてうれしかった。自分がまぶしくてきらきらしたものに
なれたような気がしてたまらなく嬉しかった。そしてその欠片は、今は
わたしのこころに突き刺さり、わたしの身体に残ったままだ。いったい
この欠片は、わたしの一部になったのかそれとも抜けない棘なのか・・。


 夢の中であのひとがほほえんでいた。暗闇に消えて行きそうだった。
何処に行くの?と訊いてもなにも答えない。私を置いていくの?と
叫んでもただ微笑んでいる。わからないよ、どこにいるのかわからないよ
あなたは飛んでいるじゃないか?、と、どこからかあのひとの声がきこ
える。泣き叫んでいるわたしが小さくなって消えていく・・・。


 夢と現実がごっちゃになって、頭がおかしくなりそうだ。あのひとは
どこへ行くのだろう?もうあたらしい夢に向かって旅立ってしまったの
だろうか?あのひとにとって、目指す場所があるだけで、帰る場所など
ないのだ。ただ、自分の船を漕ぎだしたまでのこと。わたしは船にとまって
いた傷ついた鳥だったのだろうか?思い出すあのひとはいつも優しい。
逢えないときのあのひとの声はいつもやさしい。私を抱きしめるあのひとは
いつもこの上なく優しい。なのに、わたしは刺さった夢の欠片の痛みを
いつも身体に感じている。棘を抜くようにあのひとのことを忘れることも
出来ずに丸くなってあのひとのことを考えている。どうか、早く目が覚めて
夢より優しい今日が訪れますように・・と目を固く閉じてじっとしている。