撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

大丈夫・・

 目覚めると日が高かった。あんなに悩んでいたのにいつの間にか
眠っていた自分がおかしかった。夢もあれからみていない。こんな
風に眠れるのなら、あのひととまた逢えるまでずっと眠っていられたら
いいのに・・などど、もうあのひとのことを考えている自分に気づく。


 あのひとからのメールが届いていた。夕方の時間と場所が素っ気なく
打ち込まれている。返事は出さなかった。そんなことをするのも
初めてだ。


 それでも夕方になればわたしのあしは自然とその場所に向かう。
返事をしなかったのに、確認のメールもない。わたしがそこに行かなか
ったらあのひとはいったいどうするのだろう?わたしが返事も出さずに
そこに行ってもあのひとは本当にそこにいるの?


 近くで時間をつぶして5分遅れでゆっくり歩いていった。あのひとは
当たり前のようにその場所に立っている。私を見つけると、ちょっぴり
微笑んで、何食べようか?と歩き始めようとする。わたしはそのまま
動けないでいる。視線を合わせることもできず、ただ、その場所で
じっとしている。どうしたの?ときかれても、なにも言えずに、何か
しゃべろうとすると、何かかぷつんと切れて大変なことになりそうな
自分でもどうしようもないものをじっと抱えてうごけなくなったように
そのまま立ちすくんでいる・・・。


 あのひとは、そっとわたしの手を取ると、すこしばかりわたしをひいて
それからそっとわたしを抱きしめた。わたしの頭を自分の胸に引き寄せて
それからその手のひらでわたしの髪の毛を何度も撫でながら小さな声で
囁いた。「大丈夫だから・・大丈夫だから・・」


 わたしは声も立てずに泣いていた。ずいぶんながいことそのままあの人の
胸に顔を押しつけたまま、じっと泣いていた。人々は街を行き交う。雑踏の
ざわめきも喧噪もいつもと何一つ変わらない。それでも、だれひとりとして
私達を気にはしない。都会のエアポケットにはまりこんだようにその場所で
わたしはただただ泣いていた。なにが大丈夫かわかったわけでもなく、何が
変わったわけでもないのに、やがて、わたしはあのひとの胸のなかで、
何度も何度もうなづいていた。