撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

切ない

時間がゆっくりと流れる
いつのまにかすこしだけうとうとしていた自分に気づいて慌てて部屋を見回した
よかった
なにひとつ変わっていなかった
あの人の寝顔が隣にある
今日は眉間のしわも消えて子どもみたいな顔で眠っている


静かにからだの向きを変えて少し丸くなって目を閉じた
背中に体温を感じたと思ったら心地よい重さの腕で包まれた


からだの中に対流が起こるのを感じる
背中から肩へ肩から腕へ
一方で背中から爪先に向かって
そうして背中から首筋を通って髪の毛の一本一本の毛先まで・・
脈拍のように規則正しく温かいものが何度も流れていくのを感じる
そうしてそれは目に見えない網目のように私のからだすべてを通り
その中を流れるなにか温かいもので満たされていくのだ


そのなかにひとつだけ・・
まるで真珠の真ん中の核くらいの小さな小さな硬くて温度のないものがあるのはなんだろう?
温かく満たされたやわらかなそのなかに
ちいさくコツンとあたるかすかなものはなんだろう?


「なにか考えてるでしょ?」
あなたが尋ねる
わたしは大きく首を振ってその胸に頭をぶつけるようにして顔を隠す
それ以上あなたはなにも聞かずにただ私の髪を漉くように撫でてくれる


小さい頃、日が暮れかかる頃にこんな気持ちになった
不安と呼ぶには甘くて、痛みと呼ぶには愛しい
それでもどこかやるせなくなるこの気持ち


ああ・・切ないなあ・・・


悲しくもないのに涙が出そうになる
きっとそれはそばに泣ける胸があるから
ふたつならんで静かに瞬くようにふるえるそのはかなさが愛しくて
こころだけでなくからだでも切なさを感じることがあるのだと
ぴたりと寄せ合ったその感触に教わった気がした