撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

空を見上げる

 何度も気づく。わたしの心は私にしかわからない。あのひとの心が
あのひとにしかわからないように。それは、かなしいことでも幸せな
ことでもない。あたりまえのただの真実だ。


 あのひとの胸からようやく顔を離してふと空を見上げた。泣くのは
おしまいにしようと、口をかたく閉じたまま、冷たい空気をすすり上げ
るように吸った瞬間だ。三日月にたまった涙が、涙で膨らんだ月から
溢れてこぼれたみたいだった。月がうるんでいる。あの月は私だけの
月だ。月はひとつしかないけれど、月は、見上げるひとの数だけ顔を
持っている。


 いまからどんな時を二人で過ごすのだろう?あのひとは私の涙を
どう受けとめてくれるのだろう?あのひとのまえで、わたしは泣いて
ばかりいる。だれにも見せたことのない、いくつもの涙をあのひとに
見せてきた。


 もう、さようならを言おう。泣き虫のわたしに。当たり前に続くと
思っている毎日に。月はいつも空にある。しかし、見上げなければ見えは
しない。見ようとしなければ見えるものなどなにもないのだ。あのひとに
別れるときにさようならを言おう。そしてまた逢いたいと言おう。
当たり前のことは、ずっと繋がっているわけではない。数限りない想いを
重ねて、なめらかに繋がっているように見えるだけなのだ。