撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

メビウスの帯

 手を繋いで歩いた。冷たい風が頬を凍らすけれど、繋いだ掌だけ灯りが
灯ったようにぽっと暖かかった。あの人はやっぱり何もきかなかった。それ
でも、それは今のわたしにとっては心地よいことだった。


 何度も何度も繰り返す。不安と満足を・・。出逢っただけでもう充分・・
と思いながら、そばにいないあのひとを憎んで・・・。月が満ちては欠ける
ようだ。自分の心の裏と表が順繰りに出てきてはわたしに囁く・・まるで
メビウスの帯の上を歩いているように、どこから何処まで歩いたのか分から
なくなる。それでも、わたしはあのひとに向かって歩き続けている・・。


 あの人が呟く。必ず帰ってくるから・・と。わたしは小さく首を傾げて
あの人を見つめる。必ずあなたのところへ帰ってくるから・・とあのひとが
もう一度わたしに囁く。わたしは不思議なほど静かな気持ちでその言葉を
きいていた。待っている・・とは言わなかった。行ってらっしゃい・・も
少し違う。ただ、あのひとの首に腕をまわして、そっと抱きしめて頬を
寄せた。その時、冷たいものが触れてどきりとした。落ちてきた涙・・?
メビウスの帯の裏と表は、あのひととわたしだったのかしら?