撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

思い出

シャンパンの栓を開けると立ち上る微かな音と匂いが
はるか遠くにかすむ思い出をよみがえらせる


背中を辿る指の感触も
素肌が触れ合う温度と湿度も
腕のくぼみに頭をのせた時の首の角度も
手を握られたときの包まれる感じも
多分一瞬で私の体によみがえる
懐かしさと胸の痛みと
そして少しの不安に耐えることができるならば・・・


甘さの中に潜む苦味と
喉を軽く刺す刺激
ほおっておけばすべてが泡と消える
そして残るものはただ・・・


思い出と呼ぼう
思い出にしてしまおう
喉に流し込んだその瞬間から



振り返ろうとしたとたんに
車は走り出した
さよならもいえなかったけれど
きっとそれでいいのだろう
どんな顔をして言えばいいのか分からないから・・


また逢えることがあるのならそれは新しい出会い
ただそのままに続くものなど
この星になにひとつないのだ