撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

かわらないなあ・・(純情きらり)

 達彦がカフェマルセイユにやってきた。彼なりに、少し乗り越えたの
だろうか。昨日までの、時に虚ろに、おびえたような色を映していた
彼の瞳が、すこし落ち着きを取り戻しつつあるように見えた。自分で
自分のことが見えてきた・・というのは進歩なのだろう。


 「かわらないなあ・・」とつぶやく達彦。変わらないことが、残酷なときと
優しいときがある。ただ、かわらない・・とそのままの事実を受け入れられる
ようになった達彦をやさしくみつめるマスター。「音楽かけていい?」と聞く
気遣いもさりげなくやさしいなあ・・と思った。一方で、桜子がくると、
ジャズの話に水が向くように触れるあたり・・。


 手を引いたり、背中を押したりという、強いかかわりはしない。でも、
進んで欲しい方向の扉をさりげなく開けたり、見て欲しい部分に、さりげなく
光を当てて見えやすいようにしたりする。なにが起こっても、だれと来ようと
その店に来れば、その店の変わらない空気のなかで息をすることができる。
 おもいっきり深呼吸をして、気持ちを落ち着けたら、あとは自分で道を
選び、また来るね・・と笑顔で出ていくことができる。マスターヒロの、
誰にも何にも片寄ることなく、ただそこに存在するだけの透明な存在感。
変わらないことのやさしさを思わせてくれる、見守ってくれている安心感。
こんな場所、こんな存在感っていいなあ・・。この透き通ったつよさと
やさしさを持ちたい、そんな憧れに似た気持ちを感じた。