撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

聞かせて!(どんど晴れ)

 秋山なる男に自分の改装イメージを語り、眠らせていた
自分の想いを再度膨らませていく伸一。


 柾樹の考える加賀美屋のリフォームの話をわたしもそう
思うわ!と、聞かせて!と身を乗り出す環。


 どちらも加賀美屋のことを大切に考えていることに違い
はない。しかしながら、自分の話を聞いてくれるひとが
柾樹にはすぐ隣りに・・そして加賀美屋のなかにいるけれど
伸一は外に見つけてしまった。それがどんな思惑を持った
どんな人物なのか疑うことも確認することもせずに、伸一は
話を聞いてもらう、という関係を持ってしまった。


 いろいろなひとと毎日いろいろな話をしてはいるが、本当に
記憶に残る、考えに影響を与えられる話というものは、そう
多くはない。自分が興味・意識を持っていること、または自分が
認めているひとからのもの・・そんなものだけだ。


 知らず知らずのうちに自分の考えを変えられる。頭で納得
していたことでも、心に残っていたことをもう一度、甘く
囁かれるように肯定されると、自分の存在そのものを認めて
もらい、すべてを理解してもらったように、こんなに心を
許してしまうことがあるのだ。


 秋山は確かに胡散臭い。加賀美屋を狙っていることもうすうす
感じられる。しかしながら、伸一は、加賀美の家のだれよりも
秋山に話をしてしまう。それが、嘘っぱちのまがい物であったと
しても、自分を受け容れてくれる存在というものは、どこか
たまらなくひかれる存在であるのだろう・・と思う。


「聞かせて!」という笑顔は、まるで大きく腕を開いて待って
くれている、暖かく心地よい胸のように感じられる。