撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

大切なものが分かれば・・(どんど晴れ)

 仲居たちだけでなく板場まで・・・。大変なことになって
いる加賀美屋。何かを崩そうと本気になれば、どこからでも
手を出すことは出来る。仲居さんたちや、板前さんたちが
新しい場所で本当に加賀美屋以上の満足を得られるのかどうか
は、何とも分からないところではあるけれど・・。


 環さんがレベルアップしているな・・と感じる。それは
とりもなおさず伸一が落ち着いて、息子夫婦が力になって
くれることを確信しているから。力になる・・というか
息子がきちんと定まってくれるだけで、どんなにこころが
安定したことか、今までとは段違いに違うよな・・と思う。


 夜中に岸本さまのそばに控える夏美には何だか心が温かく
なった。以前、こうして部屋の外で環さんと夏美さん、二人で
座ってたこともあったよなあ・・なんてのも思い出しながら
具合が悪くてふと目覚めた時に、笑顔で介抱してもらうなんて
子供の時以来ないや!・・なんて(笑)。ひとり暮らしている
ひとや、自分で我慢しちゃうひとにとっては、家にいるよりも
かえって心安らぐ一瞬だったことだろうと思う。そして、それ
は、時によっては忘れられない出逢いであり、かけがえのない
もの・・に感じられるかもしれない・・と思う。加賀美屋の
おもてなしの心は、そんなものを求めるお客様が、ふと振り
向いた一瞬、その一瞬がいつ起こっても、いつでもそれに
笑顔で答えられるように待ち設け、心を尽くすことなんだろう
なあ・・と思う。岸本さまが悪い・・と聞けば、ほかの負担が
環に掛かることを承知の上で夏美についていてあげて・・と
いう、その心が、何が大切なことか、どこに気持ちを注がな
ければいけないかということが分かっているひとだなあと思う。


 夏美の父が倒れた・・と連絡が入る。こんな加賀美屋を
残して帰れない・・という夏美の気持ちは痛いほど分かる。
 しかし、恵美子さんの心強い言葉、そして、あなたのお父さん
は一人しかいないのよ・・という女将の言葉。


 大切なものは何か・・。何よりも大切な家族というもの・・。
しかし、一方で心煩わせる面倒なものでもある。いないほうが
かえって楽・・と時に思わせるほどに・・。しかしながら
心を支えて、助け合ってくれるのもまた信頼する家族・・でも
ある。家族という名前がついただけで、そんな家族になれると
思うのは甘いのかもしれない。夏美が加賀美屋でどんなに頑張って
きたか・・。いや、血の繋がった環と伸一や、好きで一緒になった
はずの伸一と恵美子ですら、どんな想いを乗り越えてようやく
信頼しあえる家族になっていったことか・・・。


 夏美に環が、信じてちょうだい・・という。家族にしろ、仲間に
しろ、大切なひとと信じ合うこと・・そこから始まるのかも
しれない。信じることが出来るためには・・信じ合えるように
なるためには、やはり、様々なものを乗り越える必要があるとも
考えるのだ。