撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

あんたのせいじゃない(純情きらり)

 冬吾さんを瓦礫の下から救い出した桜子。こころはさまざまに
かたちを変えつつ乱れる。


 笛子と冬吾は、お互いに影響を与えつつ、確実にふたりの
ものをつくりだしていたことを感じさせてくれた。笛子の
「生きててくれただけでありがたい」と言う言葉は、あたたかく
力強く、涙が出た。そして、冬吾のことを、「このひとは、しぶとい
から・・」と言う言葉にも、笛子と冬吾のつながりを感じた。


 桜子が、いままでに感じなかった胸の痛みを感じた・・とは?


 笛子に、あんたのおかげよ、ありがとう、と言われたときの、一瞬の
きまりのわるそうな表情・・。お姉ちゃん、違うよ、お礼なんか言わないで、
あたし、自分のために冬吾さん助けたんだ・・・そう言いたげだった。


 冬吾さんが、危ないと言われて、笛子とともに駆けつけた桜子。お姉ちゃん
ごめん・・と言ったときは、一瞬なにを謝るつもりかとびっくりした。まだ
何も起きていないけれど、自分の心の動きを笛子に詫びるのかと思って
しまったよ。自分が、助けるためとはいえ、こんなことをしたから、脚の
けがをさせてしまって・・ということらしい。


 それに答える笛子。冬吾はしぶといから大丈夫だと。もし、何が起こった
としても、それは運命だ、あんたのせいじゃない、と。


 笛子の落ち着きが、まぶしかった。いつの間にこんなふうに、強く
優しく、そして冷静になったのだろう。冬吾さんが笛子に与えた影響も
大きいと思う。そして、自分で苦しみながら、見つけてきたことも・・。


 桜子にとっては、当たり前に優しいけれど、いまの桜子の胸の奥の想いに
とっては、冷たい言葉だったことだろう。桜子は、今、自分が何も持って
いないことをとても心細い気持ちでこらえている。冬吾に、自分のために
生きて!といったのは、自分の生きるためのつっかえ棒が欲しかったと
言う部分もあると思う。冬吾さんが大切なひとだということに気づいたのも
事実。冬吾さんを助けたいと思ったのも事実。でも、冬吾の生死の境に
関わる、という状況に遭遇して、あたしが助けた、あたしの冬吾さん!と
いう気持ちが桜子に全くなかったとはいえないと思う。桜子は何かを
欲しがっている。自分だけのための何かを・・・。何かと深く関わりを
持つことを、からっぽの乾いた心で渇望している。


 冬吾は、何処まで気づいていたのか?


 ひとはみな自分の人生で主人公だ。世界は自分を中心に回っているような
気持ちになる。幸せも、哀しみも、すべての周りの人も自分の為にある
ような錯覚に陥ることがある。しかしながら、現実は目の前に存在するだけだ。
 自分が動かしていくものではあるが、自分が動かせないこともある。自分が
動かしているなどと思ってはならないものでもある。


「あんたのせいじゃない・・」


 それは、解放と再生のための言葉のようにも聞こえる。桜子にとって、
そして、身も心も傷ついている全てのひとの為の・・・。