愛しいひと(純情きらり)
桜子が亨ちゃん、亨ちゃん、といっていたのは、大切な家族というだけで
なくどこかで冬吾を感じていたのかな?とふと思った。自分と血が繋がって
いて、しかも大好きな冬吾と繋がる男の子・・・。
笛子が、あたしは冬吾と離れたら、一日だって生きておれん!って言い
ながら冬吾の絵を持って家を離れるのが面白かったな。笛子には、冬吾だけで
なく、冬吾と築き上げた様々な絆がある。あのひとは、描くときばっかり
一生懸命で、描いてしまった絵には見向きもせんのだから・・というのが、
何故だか笑ってしまった。真実の美しさを結晶させるのは、芸術家冬吾。
しかし真珠を首飾りにするように、その美しいきらめきを、現実の世界に
とどめるのは、笛子の役割。
すぐれた画家の後ろに、崇拝者にも似た純粋な画商がいたように、芸術家の
うしろに、パトロンの存在があったように、芸術家それだけだと、その作品を
広く知られることは難しいのだろう。笛子は冬吾が絵描きでいるためには、
やはり必要な存在なのだ。色んな意味で、冬吾を現実と結ぶのは笛子だ。
笛子は人に尽くして、頼っているように見えて、実は自分で生きている。
むかしから、自分で決めて、そして自分のことに関しては、一切後悔しない。
桜子は、自分勝手に生きているようで、じつは人のために動き回っている
ことの方が多い。桜子が今日自分で言っていたように、意外と一人になった
ことがない。じぶんの為に生きたことがほとんどないんだ。本人が意識して
いるかどうかは別にして・・。
「家族」と一言で言うけれど、もとからの家族と、自分で好きな人と
作った家族とは意味がちがうものねえ・・。冬吾って、桜子ちゃんもいて
こその家族だと思う・・なんていってたけど、それはある意味残酷だと
思ったよ。持ってる人にはわからない残酷さかなあ・・と思った。それほどに
冬吾は笛子たちと家族になっているんだ。分かり合えていると思ってるひと
から、そんなこと言われる時って、とてつもなく切ないよなあ・・。
欠けたおはじきが指先を傷つけそうな、その痛みを感じそうな、そんな
やるせない場面でした。