撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

運のつき(どんど晴れ)

 あのおじいさんの言ったとおりになっただけさ
 ここであの座敷わらしにあったのが運のつきだって・・


 そう言った秋山が起こした大どんでん返し。


 お客のためを思い、そのことだけのためにただひたすらに頭を
下げて今日一日の営業を頼む女将環と、加賀美屋のすべての人間
たちの姿が潔かった。自分たちの事情も、相手への恨みも、一切
入らない、ただ加賀美屋を楽しみに訪れるお客様のためだけの
懇願・・・。おもてなしの心の澄んだ具現。


 ここまで・・と決心してことを起こした秋山。帰っていく仲間に
分かっている・・と。自分がやってきたことも、今自分がやった
ことがどういう意味を持つかも分かっている・・それでも選んだ
この日のこの秋山の行動・・・。見送ったあとの取り返しのつかない
ことをしたというあきらめと苦悩の混じる表情。しかし、かすかに
ほの見える肩の荷をおろしたような安堵感。


 運のつき・・乗っ取り屋秋山にとってはそうかもしれない。しかし
ながら、すべてをひっくり返してぶちまけて、何もかもなくして
しまったあとにも彼の人生は続く。もういちど、はじめから始めれば
いいだけだ・・何も、罪を犯したわけでもない。我が身ひとつに
なっても何とかやっていける・・そんな心をどこかに隠し持って
いる人間は、いつも強いと思う。


 大切なものは・・見つかったばかりかもしれない。