撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

 7

 いったい何が欲しかったんだろう・・


 今日出会ったばかりのそのひとの声をききながら、一瞬にして
時間を引き戻されてしまった。あの絵の前で立ちつくしていた私。
私がその場所で考えていたひとの面影。遠い昔のあるひとと私が
共有した空間と時間。そして鳴り響く音楽。


 自分が考えていたことを言い当てられたような気がして驚いただけ
ではない。たぶん・・その声の響きが何かを呼び起こしたのだ。そのままの
声ではない。空気を震わせる響きが似ている・・。


 驚いたまま離せなかったわたしの視線を、目の前のこの人は当たり前に
受けとめている。なんでこんなに私のことを分かっているような顔を
するのだろう?すこしばかり意地悪な気分になったわたしは、にらみつける
かわりに、懐かしい視線を送った。その声の響きを懐かしみながら・・。
 思いがけず、さっと視線を逸らした男に少しびっくりしながら、席を
立って店を出た。外に出て、店の暖かさにあらためて気づいた。