撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

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 ほんとにどうしてだか分からないのだけれど、今また、わたしはあの
男の運転する車の助手席に乗っている。あの電話で、どうして私からの
電話だって分かったの?見知らぬ携帯番号にかけるなんてこわくないの?
というわたしに、プライベート用の携帯だということ、その携帯の番号は
めったなことではひとに教えないこと、電話番号を登録していない人で
番号を教えているのは、今私だけだと言うこと・・などを聞いている
うちに、次の約束をしていたのだった。


 私の自宅にほど近い公園の駐車場で待ち合わせをした。わたしがそこに
着いたときに、男は自動販売機のある一角の木陰に立っていた。わたしが
気づくよりも先に気づいたようで、こちらに歩いて来ている・・と思ったら
その自動販売機から、何の迷いもなく飲み物を叩き出す。二人分の缶コーヒー
だった。ちいさく挨拶をしたら、車に案内して、助手席に座ったわたしに
コーヒーを手渡してくれた。砂糖抜きのカフェラテ・・何で好みが分かる?


「何処に行こうか」
「・・・」
「海は?好き?」
「・・はい・・」
「何時に帰ればいい?」
「別に・・」
「じゃ、決まり!」


 北向きの高速道路への入口を聞かれた。私もどこを目指しているのか
聞けばよかったのに!


 コーヒーは甘くない。でも苦みは心地よくあとくちは優しいミルクの
風味が残る。いつもの道がなんだかとても違う景色に見えてきた。