撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

まだまだこれからよ(純情きらり)

 桜子がつぶやく。私にはまだなにもない、と。杏子には仕事
笛子には家族。でも、今のわたしには何もない・・と。音楽も
大したことはまだしてないし、今までの私って何だったんだろう
と思ってしまう・・と。


 磯さんが、母親だということを開かさなかった。強い心で
跳ね返し、持ちこたえた。思い通りにならないことだって、
望んじゃいけないことだってあるんだって・・。


 空襲から数日経って、いくらか落ち着きを取り戻している。
自分の心を覗く余裕が桜子たちにも出てきている。本当にすさまじい
ものだったのだろうと、今さらながら思われる。


 親を亡くして、杏子のそばを離れない女の子が、なにもない・・
と迷子のように立ちすくんでいる桜子の心そのものとだぶって
見えた。それでも、鈴村の折った鶴がちいさく羽ばたくのを
みつめる瞳には、ちいさな希望とひとの優しさに囲まれたときの
人間のつよさを感じた。


 無くしたものばかり見てしまうけれど、ひとにはあって自分には
ないものばかり数えてしまうけれど、それでも明日は誰の上にも
同じようにやってくる。