撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

ひとのぬくもり(純情きらり)

 鈴村と杏子が笑っている。笑いながら見つめ合っている。それだけ
なのに、なんだかドキドキした。ふたりが交わした言葉は、こぼれる
さきから、きらきらと輝く宝石のように見えた。ひとが絶望から立ち
なおれるのは、あたらしい希望がみつかるからだ。ひとは、希望なし
に生きてはいけない。


 桜子が、笛子に不安を漏らす。笛子が桜子に、「あんたには家族が
おる」と励ましたあの一連の言葉も、すごく優しかったが、わたしが
涙がでたのは、その前。笛子が自分の掛け布団を開いて、桜子に、
「こっちにおいで」とささやいたところ。羨ましいほどいい場面だった。
 おとなになっても、とっても不安なときや、とっても寂しいときは、
だれかのぬくもりが欲しい。理屈じゃなくって、だれかに抱きしめられて
大丈夫だよっていってもらいたくなる。笛子の顔がとっても穏やかで
優しくて、美しかった。いろいろあったけど、乗り越えたんだなって
思った。


 杏子と鈴村も、お互いの心に触れる温もりを確かに感じていたはず
だ。しかしながら、ふたりの道は重ならなかったようだ。だれが悪い
わけでも、不幸なわけでもないけれど、巡り合わせというものが
あるのだろう。確かな思い出だけを残してすれ違うふたりもいるのだろう。


 鈴村隣組長が桜子に挨拶に来た。音楽が役に立たないと決めつけたのは
間違いだった、あんたには悪いことをした。可能になったら一番に
ピアノ線を返しに来る・・と。つらいばかりの関係だと思っていたひと
とでも、一瞬の人間のぬくもりを感じられることもあるのだ。