撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

書き込めないこと(どんど晴れ)

 カツノのいない加賀美屋。もう随分前から加賀美屋の場面で
カツノは出てはいなかったのだけれど・・。


 夏美が、カツノのいた部屋を空けるのをためらう。その一瞬が
夏美の心の揺れのようで切なく涙が溢れた。そう・・涙を流せれば
いいのだけれど・・。


 ぽっかり空いた穴はなにも語らない。痛みもない。しかしながら
そこにあったはずのものがない・・というそれだけで、自分が
どこかに吸い込まれるような、落ち込んでしまうような、言いしれぬ
空虚と不安が襲う。


 顧客名簿をパソコンで整理するようにした・・という加賀美屋。
しかし、長い馴染みのお客さんのことは私に聞いてくださいね・・
ここに書き込めないこともありますから・・という環。大女将は
じぶんの身体のことが分かっていて、自分の知っていることを
すべて伝えようとしていてくださったのではないか・・と夏美に
つぶやく環。カツノのことを思い出す夏美。


 書き込めないこと・・それは大事なプライバシー・・という部分も
あるだろうけれど、人から人へ直接伝えなければ伝わらないデリケート
な部分・・ということもあるだろう。ひとが醸し出すその空気はその
場にいなければ分からない時がある。そして、ひとがいないときの
その空気もまた・・名状しがたいものではあるけれど、心の中で
確かに感じている大変な変化でもあるのだ。大きな喪失感を味わった
とき・・頭と心と身体と・・・そのすべてが認識し、納得するには、
どうしても必要な時間と手順はあるのだと思う。