撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

ひとことも言わんでね・・(芋たこなんきん)

 いつかは、とおもってたけれど・・でも、あまりにも突然の
おとうさんとの別れ。何の心の準備も、前触れもなく、いきなり
やってきた別れの日。


 おとうさんにお世話になった・・とやってくる人たち。うちにも
ひとり風来坊がおるから、おあいこや、と言っていた・・と。
 かくにの行き先までしっかりと話をしてくれていたという、
おとうさん。どこまで面倒見のいいひとなんやろう・・と微笑む
家族。ひとことも言わんでね・・とおかあさん。


 おなごは、こんなことまでいわんでも・・ということまで言わんと
なんもわからんあほや・・そやけど、可愛らし・・と言っていた
おとうさん。


 おとこはいつも意地悪だ。何を考えてるかわからなくて、何が
したいのかわからない。言って出来れば当たり前で、言って出来な
ければ嘘つきと呼ばれるのなら、何も言わずに笑っているだけなのかも
しれない。おんなの驚く可愛い顔だけみたいと思っているのかしら?


 おかあさんの心の中で、ちょうど笑顔で想い続けられるくらいに
とんとんに帳尻合わせてさよならできるおとうさんは、やっぱり
相当な、人生の達人だと思う。息子を思いやりながら、見知らぬ人に
お酒を振る舞っていたおとうさん。誰に対しても惜しげなく振りまかれ
ていたおとうさんの笑顔と優しさは、回りまわって、いつかおとうさんが
一番大切に思っていた大事な人に届いていくのかな・・と思った。