撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

母と息子(純情きらり)

 達彦が桜子へ宛てた手紙を見たかね。桜子に、達彦が生まれた日のことを
語る。その顔は、不思議なほどに、落ち着いて、澄んで見えた。かねは
いったい何を考えていたことだろう・・。


 息子が、自分の死を覚悟している。そして、それを愛する婚約者に手紙と
してあらわしている。思いやりに満ちた手紙。切ない手紙。


 今まで、無事を祈り、生死を心配し、どれだけ神経をすり減らして来た
ことだろう。絶対に生きている・・と念じつつも何に頼ることも出来ない
あやふやな祈り。死んでしまったとあきらめてしまうほうがどれだけ楽か
わからない。それでも、必死で支えていた心がさらさらと形をなくして
いくようだ。いっそ、わたしも消えてしまいたい・・・。


 かねは大丈夫だろうか?


 もし、生きていけるとしたら・・。達彦がいなければ、生きていく希望も
ない母、かね。それでも、気持ちを立て直して生きていこうとするなら、
こんどこそ、達彦を待つことを自分の命として生きるだろう。桜子には
手紙が来た。わたしには、何もない。それは、何もないのでなく、待つことを
許されたのだ。それが、婚約者と母の違いだ。私がお腹を痛めた息子は、
わたしの魂。生きて帰ってくれば、それは彼の人生だが、どこをさまよって
いるかわからない今の達彦は、ただのわたしの息子、わたしが守る魂だ。
帰ってくるまで、何があっても私が守る。生きていると信じて待つことで
私が守る。そのむかし、ちいさな命の芽生えだった頃のように・・・。
親子の絆は、理屈を超えたところで、存在する。


 桜子はかねに何を言われても自分で自分の道を選ぶだろう。同情でもなく、
義理でも義務でもなく自分の本当の心と向き合った上での決断。それでも
達彦を待つなら、それは、彼女の選んだ最良の道だし、だれも口出しできない。
自分で決めること・・・それが一番大切なことなのだ。


 ・・・想いが届きますように・・・。