撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

ひとりぼっち(純情きらり)

 ひとり帰って来た達彦
 父はすでにいない
 兄弟ははじめからない
 母は自分がいない間にいなくなっていた


 どうして自分はここにいるのだろう
 みんなが大将と呼ぶ
 どうして自分は生きているのだろう
 みんなが母が死んだ話をする


 どうして死んだ人と生き残った人がいるのだろう
 帰らぬひとを待つ人がいて
 帰るまで待てなかった人がいて
 生きていても逢えない人がいて・・・


 考えようと
 こころの深いところをのぞくと
 そこには恐ろしい記憶が眠っている
 ひそやかな落ち着きすら許されないのか!


 この恐ろしい暗闇を
 おだやかな空間に変えてくれる何かはないか
 すべてを流し 赦し 
 どうぞ やさしいもので満たしてください


 なんだか、達彦さんを見てると辛くて辛くて・・・。一人っ子で
父も母もすでにいない・・というだけで、もう勝手に自分を重ねてる。
 父との別れは突然で、母との別れは人に取って代わられた。そう、
理性では、僕のかわりにありがとう、というべきなんだけど、立ち会え
なかっただけでもショックなのに、人が自分より深く関わっていたら
それはそれはショックです。達彦はそのへん意識しているかどうか
分からないけれど、我が子にとって、相手がどんなひとであれ、一人っ子で
自分が一番と思っていた母に、他の人が関わって自分より深い関係を
(一時的であれ)持ったというのは、嫉妬します。ましてや、最期の
瞬間・・・。自分が独占したいのに、自分が全てを受けとめるのが当然と
思うのに・・・。母親の死に立ち会えなかった達彦に対して、「お母さんと
心が通ってたんだよ」という桜子の言葉は、浮気告白以上に取り返しの
つかないひどい言葉だと思う。・・もちろんこれは私の個人的な感情かも
しれないけど・・。でも、そう思う人間もいると思う。私はそうだ。
(達彦さんの場合は、桜子云々じゃなくて、看取ってやれなかった自分を
 責めてしまうかもしれませんね。自分に突き詰める人ですもの)


 かねは、死ぬ直前になにを考えていたのか・・。自分の一番大切な
こども。本当に達彦のことをあきらめていたのだろうか・・・。
帰ってくることを考えていなかっただろうか、生きていて欲しいと
だれよりも思っていたはずだ。桜子に、自分がいなくなったあとの
ことを考えた手紙と花嫁衣装を用意していたかね。店が代替わりした
あとでも、もし万が一、達彦が帰ってきたら・・。母親だったら、自分が
死んでも子供の幸せは望む。自分がいなくなったあとの心配は我が子
だけだ、本当は。桜子よりも達彦だ。


 仙吉さんが、達彦を見守るまなざしがやさしい。店を継ぐ大将として
立てながら、でも、達彦そのものを見守っている。桜子への手紙をかねが
仙吉に預けたように、かねは、達彦のこともなにか仙吉に託したのでは
ないか?(彼は、大将と坊ちゃんと呼びわけるんですね)子供が親の
もとを巣立ち一本立ちするためには、親から充分に愛されたという自信が
必要だ。愛された記憶は、自分を大切なものと思うエネルギーになる。
生きていく根本の力だ。人との関係はそれからだ。


 達彦が生きていく力を取り戻すことを祈っている。


ああ〜!!このとこ桜子寄りだったのに、達彦さんが帰ってきたとたんに
心の主人公は達彦さんになっちゃってるのが自分でもよく分かる・・。
 桜子なんかより、あたしのほうがあなたを理解できるわ!!!って
感じですね。理解できたからって恋愛できるわけではないのは分かってます。
ええ、それくらいは理性残ってます。