撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

お喋り

依子さんはよくしゃべる

自分のこともよく話してくれる

そんな話の中から私はいつもヒントをもらうのだ

おしゃべりじゃない?そっかな~?

 

半分酔い始めてた頭でふうむと考えてたら

ドアをあけてみーすけが入ってきた

あ、みーすけだ!こんばんは!今来たの?

かえでってばいきなりみーすけはやめてよ

ネコが店に紛れ込んだみたいな・・

あ、マスター、チーズケーキとコーヒーお願いします

え~?飲んでないの?飲まないの?

もう飲みました。明日朝から仕事だから酔い覚ましの一軒なの

 

みーすけは会社勤めのまじめな子だけど

夜にはミュージシャンの顔も持っている

時折コンサートを開いたりライブハウスに出たりしてる

あ、私かえでもまじめな仕事人なんですけどね

演奏仲間との打ち上げでここに来たのに居合わせて

何度かコンサートにも行きここでも挨拶を交わし

そのうちには友人のひとりに数えてもらっている感じ

マスターはもちろんのこと依子さんも共通の知り合いである

 

で、依子さんがおしゃべりかという話題

 

どうかなあ?確かによくしゃべってるけど

それはね

喋ってるんじゃなくて話してくれてるんだと思うよ

単なるおしゃべりなおばさんってさ

何か伝えたいことがあるっていうより

自分が喋ってるのを聴かせたいだけみたいなとこあるじゃない?

喋ってるあいだだけは自分が安心できるみたいな?

だからさ同じ話を何度もするの

え?同じ話を何度も繰り返すわけ?

それはもっとお年を召した方かしら?

さすがに同じ相手に何度もはそうそうないけれど

相手を変えてまたおんなじようなこと言ってるわけよ

こっちはそれなりに気を遣って真剣に聞いてたのにさ

そういう人って相手は誰でもいいみたい

次の日に別の人におんなじ悩み話をしてるの聞いたときには

もう私このひとに時間取られないようにしようって思ったよ~!

依子さんはそんなことはしない

それにこっちの話聞いてるときもすごく楽しそうに聞いてくれる

おしゃべりじゃないっていうのかな?

それともおばさんじゃないっていうのかな?

おばさんが悪いわけではないけど

依子さんは依子さんだと思うな、わたしは

 

わたしはみーすけのこういうところが好きだ

わたしがなんとなく感じていることや

ぐちゃぐちゃになってまとめられないことを

きれいに心地よく着地させてくれる

そのまえにみーすけのまっすぐにのびた背すじと視線の

その佇まいが美人を際立たせていて羨ましいというより好きなんだけどね

 

でもそういったあとのみーすけは

目の前に来たチーズケーキにも手をつけず

ため息ついて頬杖ついて小指のはしっこをちょっぴり噛んでいた