撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

紅い花びら(カーネーション)

あまりの哀しみが続くとひとは心を閉ざしてしまうのだろう
あまりの厳しさが続くとひとは心を枯らしてしまうのだろう


「おかあちゃん!」
そういって入ってきた子どもたちの両の掌に大事に包まれたものが
糸子の掌の上に降り注がれる
紅い花びら・・・


それまで固く縮こまって乾燥していたものに
水が注がれたように
少しずつ心がほどけていく
どこからどこまでが思い出でどこからどこまでがいまあっていることか
分からなくなるほどに遠く色すら失っていたものが
ひとつひとつその色と温度を取り戻していく
思い出の中の笑顔が微笑んで・・・


初めて声をあげて泣き叫ぶ糸子
倒れた自転車のかごからこぼれ散る花びら
変わらずそこにあるだんじり



色のない世界と色のある世界
色・・色・・様々な色



花びらの紅(あか)と
爆撃による炎の朱(あか)のなんという違い!
しかしながら
空に降る戦火の朱(あか)も遠く眺めると
花火の朱(あか)にも似て見えて・・・



ああ・・
もとは違わないものでも
それがどんな心を持つかによって
その色は幸せの色にも不幸の色にも変わるのだ
どんな心を持ってそれを使うか育てるかによって・・・
空を彩る美しい花びらにも
世界を焼き尽くす非情な武器にも変わるのだ



終戦を告げるラジオ
このラジオですらかつてみんなの笑顔に囲まれていた
そうすべては心のままに
望んだようにものごとが変わるのだとしたら
それがほんのちいさな力だとしても
愛をなみなみと満たした杯を毎日運びたいと思うのだ