撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

ボロボロのふるさと(ちりとてちん)

 「あんたがおれへんかったらオレは3年前のただの飲んだくれの
おっさんのまんまや」
 年季明けのかかった大きな舞台での高座を前にびびる若狭に
草若師匠が語りかける。出逢いの不思議。人が人に与える影響の
不思議な素晴らしさ。自分は自分のために懸命に生きていくだけ
ではあるけれど、懸命に生きるその姿は、熱は、どこかで誰かに
きっと伝わっていく。ちいさな種を蒔く。


 自分を照らすスポットライトを見つめて喜代美は何を思いだした
のだろうか。「変わりたい」と願ってふるさとを飛び出した喜代美
にとって、ふるさとでの思い出はどんなものなのだろうか。


 捨ててくれと言われた草々の座布団をなんとか直そうとする
喜代美。その座布団が草々にとってどんなに大切なものだったか
分かっているから。


 昔の自分にはもう決して戻れないけれど、昔の自分になど
もう絶対戻りたくないと思うこともあるけれど、それでもそんな
ボロボロの捨ててしまいたくなる思い出すら、懐かしく思える
日々がきっとくる。どんなに苦しいことや、嫌なことですらも
その全部が今の自分を作ってくれているのだと感謝できる日々が
きっとくる。


「たまらんぐらいなつかしい」ちりとてちんの落語の中に出てきた
ひとことが、ふと、浮き出すように聞こえてきた。


 草々の不思議そうな心許なさそうな表情がなんとも言えない。
今まで気付かなかったことに気付き始めたような、忘れていた
ことを思い出しそうな・・そんな表情。
 家族を失う淋しさはたまらないけれど、家族は自分でつくる
こともまたできるのだ。