撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

 23

 寒い寒い公園で銀杏の木にもたれて交わしたキスを覚えている。あの子
が私の誕生日のプレゼントにくれた包みはいったいどうやって持っていた
のか覚えていないのだけれど・・。


 どうやったら二人でいられるのかその術すら分からずにあてもなく
ふたりで寒い街を歩いていた。あの頃は、どうして自分のこころを
伝える言葉すら持っていなかったのだろう?しかしながら、相手の
こころを映す鏡が欲しいと思うほど、相手が本当にじぶんのことを
好きなのかどうなのかばかり気になって、うれしさよりも不安を抱えて
歩いていたような気もする。


 キスしているあいだだけは安心できた。何も喋る必要がなかったから。
あの子もそうだったんだろうか?何も言わずにずっとそうしていた。その
うち、押しつけられた背中から、銀杏の木の冷たさがオーバーも通り
越して沁みてきた。多分、ふたりの髪の毛も凍りつきそうになっていたに
違いない。


 家に帰ってから長いことお風呂に浸かっていた。もちろん、幸せだった
・・と思う。しかしながら、その幸せな気分は遠い昔に忘れて、寒かった
ことだけ今でも覚えていることに笑ってしまう。10代の恋は不器用だ。
熱い熱を持ちながら、その熱で暖かくなることはへたくそで、ジリジリ
焦げている一方で、いつもどこか冷たさに凍えていたような気がする。
 恋しているときは、自分ばかりがそんな目に遭っていると思うけれども
今思えば、私もあの子にそんな思いをさせていたのだろうか?


 なんで長いこと忘れていた、そんなことを思い出したんだろう?