撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

ふたりやないと(芋たこなんきん)

 町子が健次郎に病気のことを話す。言葉少ない説明でも、医師で
ある健次郎にはその内容が痛いほどに分かってしまう。「ありがとう
きちんと話してくれて・・」その言葉は、健次郎の精一杯の心遣い
だろう。


 しかしながら、健次郎の顔に苦痛の色が顕れたのも確か。重い荷物
を、しょわされたような気分になったのも否めないと思う。その
健次郎に、町子が続けて言う。味方に敵の本当の姿を教えておかないと
一緒に戦えないでしょう、今までで一番大きな敵、ふたりでないと
私一人では勝てないから・・・と。


 ふたりやな・・・とつぶやく健次郎。今までずっとそうやってきたん
やもんな・・と。たいへんなときに、決してお互いを一人にはしない・・
と確かめ合うふたり・・。


 町子は前を見て進む。自分の出来る最良の道を探す。子供達も、兄弟も
町子はつよい・・という。


 自分の中にもふたりを抱えている。ひとりぼっちの自分では前に進んで
いくことが出来ない。必ず治ると信じて、出来る限りのことを気丈にする
自分と、愛しいひとの病気を悲しんで泣き崩れる自分と・・。自分の気持ちを
抑えて穏やかな表情を浮かべる大人の自分と、すべてを投げ出して、当たり
散らして泣き叫びたい子供の自分と・・。明日を見つめて生きていく自分と
愛する人がいなくなるのならいっそ消えてしまいたい自分と・・。


 健次郎と、町子、いくら二人で戦うといっても、いずれやってくる別れを
考えると、最後まで見届けないといけない町子のほうがつらくなるのは
目に見えている。もちろん、実際に身体がしんどいこと、残していくものの
ことを考えると健次郎もまたつらいのではあるけれど・・。すべてが終わった
あとに、現実の世界にひとり残る・・ということがどんなにつらいことか!


 そばにいてやりたい・・というお母さんの気持ちに涙が出た。それを理解
する純子さんというひとがとても素敵だと思った。


 夫婦・・町子と健次郎のようなふたりもいい。しかしながら、ひとりで
生きているひとも、それもまたいい。お母さんのように、純子さんのように
大切なひとと心通わせながら、自分が必要とされたときに、さりげなく
ふっと寄り添ってあげられる・・そんなひとりの生き方も悪くない・・
そう、思った。