撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

欠けちまったよ(おひさま)

和成の出征の日、いつもどおりの一日を味わいたいという和成の言う通り
陽子は学校へ行き、父母は店を開ける
「じゃあ・・」「そんじゃあ・・」と、一生懸命笑顔を作って別れるふたり
最後、出てきそうになる涙をすすり上げて飲みこんだような和成の顔が
記憶に焼きついた
父母には笑顔、店には「おいでなさんし」と、まるでそこにいるままのような
ひとことを残して・・・


こっそり泣きにいく母
「欠けちまったよ・・和成・・ここ置いとくからな」と丼を置く父


子どもたちの前でいつもどおりに授業をする陽子
様子を伺いに来るあの男性陣
夏子先生の前で涙する陽子を窓越しにみている校長
「どうかご無事で帰ってきて」ただそれを言うことすらも許されない時代
ふと思う
その昔、非国民などというひどい言葉がつかわれたその時代
その言葉は、きっとひとびとの行き場所のない想いとやり場のない悲しみが
産んだのではないか
悲しみを共有するしか、その心をなだめる手立てがなくて、少しでも
それから外れるとゆるせないほどに硬くこわばって・・・



陽子が丸庵へ「ただいま」と帰ってくる
「おかえり」と笑顔で迎える丸山の父と母
きっと何度も笑顔でただいまとおかえりを繰り返すことだろう
少し帰りがおそくなるかもしれない和成が、「おかえり」と帰ってくることを・・
そしてその和成を、笑顔で「ただいま」と迎えられることを、静かに・・しかし
つよくつよく、繰り返し祈って・・そう、その祈りを込めながら・・・