悲しみを呑み込む(ちりとてちん)
「ほんまはお医者さんが目をはなしたらあかん状態らしいの」
と、寝床の人々に話す菊江さん。これもまた、ひとしが「おば
ちゃんだけに話すんやけど・・」と涙を流しながら話したのだ
ろうか・・。真実を隠すのもつらいが、話すのもまた辛い。
話し終わったあとに急いで口にたべものを放り込む菊江さんは
そのつらさをこぼさないようにするようだった。そしてビールを
ひとくち呑んで・・。やり場のない悲しみを呑み込んだように
見えた。
草若師匠の急変を聞いて駆けつけようとする小草若に草原が
諭す。草原もまた、何回も何回も、草若師匠がいなくなることを
自分の中で噛みしめていたのだろう。泣き顔になる自分の頬を
叩きながら笑顔をつくっていたように・・悲しみで涙が出るのか
頬を叩いた痛みで涙が出るのか分からなくなるほどに、涙見せずに
笑顔で演じられるほどに自分で悲しみを呑み込んできたのだろう。
4人でひとつのネタ。そしてそれに繋げる若狭の創作落語。
誰ひとりが欠けても成り立たないこの落語会。
冷静に小草若にそして若狭に話す草原にいさん。抱きとめる
草々。一番痛いところを・・しかし大切なところを口にする
四草。草若の息子であることを涙ながらに受けとめた小草若。
みんなが神妙な顔をして出掛ける中、師匠ににっこりと微笑み
ぴょこんとお辞儀をしてきた若狭。ひとりひとり違う5人が
徒然亭の落語をつくる。支え合いながら・・。一人でないという
ことはなんとも不自由ではあるけれど、なんて心強く優しいこと
なのだろう。
呑み込んだ悲しみは苦い・・しかしながら決して消えない。
きっと自分の・・そしてみんなのものになる。
レンゲ・・タンポポ・・そして桜の花がこぼれ咲く頃・・。
笑いさざめく声は、満開の花びらがゆれるようだ。