撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

全部受け容れて(ちりとてちん)

 小次郎さんのお守りを両手で包みながら草若師匠は何を願ったのだ
ろうか。

「小次郎はんはほんま心の綺麗なひとや」
「困ったとこもぎょうさんあるさかい
 そっちのほうに目が向いてしまうかもわかれへんけど」
「あんたそれ、全部わかって全部受け容れて・・あんたも立派な女性や」


 病室で、喜代美の今までの写真や書き記したものをふたりで見ながら
奈津子さんのなかで喜代美の存在が変わってきたことを草若師匠に話す。
師匠も喜代美のことを・・・。


 落語会を明日に控えた、徒然亭一門の揃った食卓。みんなの名前を
呼ぶ草若師匠。そして「おおきに・・ありがと」「ほんまにありがと」


 ありがとう・・ってこんなに綺麗な言葉だったんだ。こんなに綺麗に
全てを受け容れるような・・そんな綺麗な言葉だったんだ・・って気づ
かされた。草若師匠が息をつく音が、身体のきつさと、淋しさと、しかし
どこかすこし安堵したような・・そんなものを感じさせたような気がした。