撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

・・空・・・(芋たこなんきん)

 自分の大切にしていた本や人形・・あの空襲の中、お母ちゃんたちが
持ち出してくれて、どれだけこころが救われたことか・・。その宝物を
町子は手放す決心をする。わたしのものも食べ物にかえて・・と。
 買い出しのかえりみち、空を見上げる。ふとつぶやく。もう、おそろ
しいものが降ってくることはないんだね、わたしたち、生きてるんやね。


 抜ける青空・・ではなかった。明るくも暗くもない、雲の混じる
普通の空だった。それでも、それは何かが終わった、幸福とも、不幸
ともいえない、ただ、生きているという事実が横たわっているような
心持ちがした。いつも空はある。しかしながら、その空をこんなに
眺めていられること・・それだけでも、それは平和という幸せな状況
だったんだ。空からおそろしいものが降ってくる・・そんな恐怖に
染められた、不幸な空も世の中にはあるのだ・・・!


 お父ちゃんが亡くなった。町子は考える。大切なものを戦争でなくして
しまって体を悪くしたように思える・・と。お父ちゃんが無くした大切な
ものに比べれば、わたしの大切なものは、生きるために手放せる・・。
考えたかどうかはわからないけれど、町子は家族が生きていくことの
大切さを思って自分の宝物を手放したに違いない。お父ちゃんにだって
ほんとはずっとそばにいてほしかったに違いない。でも、町子は決して
お父ちゃんを責めたりはしない。お父ちゃんの心も分かるから・・。


 だからこそ思う。戦争は残酷だ。ひとの命を奪う。ひとの大切なものを
奪う。戦場で散った命も、戦火に焼かれた命も、そしてそれだけでなく
戦争が起こったことで、どれだけの人々が胸を痛め、苦しい生活を強い
られ、考えることを抑えつけられ、志すものを絶たれ、愛しい人を失い、
生きる支えを取り上げられ・・・目に見えるかたちで目に見えないところで
傷ついたことか!


 あらゆる体験はその後の人生に影響を及ぼす・・無駄なものはない・・
とは思う。しかしながら、戦争はいけない。人生の中には、忘れられる
傷と、忘れられない傷がある。命を奪うほどの傷もある。二度と繰り返し
てはいけない過ちもあるのだ。戦争を知らないものたちは、それを知り
想像し、その過ちを避けなければならない。戦争を知るひとたちは、どうぞ
その痛みを愛しい人に決して味あわせることがないように力をかして
下さい。未来を生きる人に愛情を分けていただけるのなら、どうぞ
あの過ちを二度と繰り返すな!と、若いひとたちに教えてください。