撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

いい男

 あのこは、一番重い荷物を、先頭に立って運ぶ・・。


 人は何かをしようと思うとき、どういうことを考えながら
行動を起こすのだろう?自分の仕事をするときは、なるべく
合理的に、無駄を省いてことを行う方が良い・・と思う。
何度も繰り返すことはそれによって負担は軽減され、動きは
洗練されるはずだ。


 しかしながら、自分だけのことではなければそれは通用
するだろうか?一回一回が真剣勝負で、一回一回が生もの
水もののような、人間関係というものや、勝負の世界というもの。


 ラグビーの話になるが、ご贔屓の高校がこのところ調子が
良い。結果も良いが、何より観ていて気持ちの良いプレイを
する。何でだろう?と思いながら見ていて思った。動きが
いい。「動き惜しみ」をしていない。そんな言葉があるのか
どうかわからないが、そう言いたくなるように、気持ちよく
動いている。ゲームが始まったすぐから、最後まで・・。


 みんなで荷物を片づけるときに、すぐ動く子はいい。目の前の
荷物にすぐ手を伸ばせば、それはいい。なかなか片づけようと
しない子もいるが、怒られるのもそれもいい。ぐずぐずしてる
うちに運ぶ荷物がなくなって気まずそうにしているのもまあいい。
そのうちさばけるようになれば、みんなで運べるようになる
だろう。しかしながら、時間を稼いで手ぶらで済ます子もいる。
軽い荷物を選んで軽く済ます子もいる。


 よくまわる頭を自分の荷物が軽くなること、自分の体験が
少なくなるために使うのは、もったいない・・と時折思う。
いっそ、何も考えずに、愚直なほどに目の前の壁にぶつかる方が
その子のためになるのでは・・と思うことがある。自分に必要な
荷物や壁があることに気づくのはいったい幾つくらいの頃なんだろう?


 14にして、重い荷物を選ぶ男は、デビュー戦を勝利で飾った。
試合中の彼の緊張は私にも分かったし、試合後に両足を投げ出して
座っていた彼は本当にぐったりしていた。後で聞いたところによると
「こんな試合もうしたくない」とつぶやいたそうだ。それくらい
プレッシャーのかかった、覚悟していた試合だったのだ、彼にとって。
それでも、試合前に彼に向かって小さく手を振ったら、彼は見逃さず
に、こちらに目で返事をしてくれた。


 ラグビー選手としてももちろんだが、ただの男としても、今でも
充分魅力的ではあるが、なんとも将来が楽しみな「いい男」である。
頑張れよ、峻!