撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

依子さん

死なない人
わたしが生きてるあいだ中わたしといてくれるひと


理想の人を聞いたらそう即答した依子さん
その日はそれ以上一言も話せなかった
いつもにこやかで私が落ち込んでいるのを励ましてくれる彼女が
そのあと一言もしゃべらず
何曲かじっと曲をきいたあとごめんねってつぶやいて
ふいと店を出て行ったのだった



ねえ、マスター
わたしなんか悪いこと言ったかなあ?
うん?どうかなあ・・
え?そんなことないよって言ってくれないの?マスター!
ははは、そんなことないよ〜
もう!今頃いってくれても遅いし〜!


マスターはあちこちで映画に関してとか
音楽に関してとかの文章を書いていて
それを読むととてもロマンチックでまた理論派で
なるほどなるほどとあんまりわかんないことも
すっごくよく分かる気がしてこういうのいいなあと思うのだけど
実際に会うととっても礼儀正しくてシャイなおじ様
早くからその文章に出会っていた私は
依子さんに連れられてこの店に来るようになってから
随分と経ってからそのこととこのマスターが一致した



まあ、ね
大丈夫だよ
依子さんは相手に文句があれば
ちゃんと相手に言うひとだから


マスターは依子さんのこと
ずっと前から知ってるの?
ん〜・・いつからだったかな
知ってはいたけど話すようになったのは割とこのごろ
だって依子さん人見知りじゃない?
大切なことはきちんと言うけど
あんまりおしゃべりでもないしね


ええええ〜〜〜!
マスター・・それほんと?
私の知ってる依子さんと違うかもです・・・

昼の月

見上げると青空に浮かぶ月
ひさしぶりね


どうしてこんなに考えているのだろう
ううん
考えても悩んでもない
ただあなたのことが思い浮かぶだけ
淡くうすいブルーを透かす昼の月のように
ふと気づくと心の中にある


ふたりだけの夜のことも
ふたりだけの場所のことも
過ぎ往くときに洗われ
夢のように儚げだけれど
それでもいいと思った時から
私の中では輝きを増してる


夢の中で
あなたの肩に頭をのせて
あなたの体温を感じながら踊ることにしましょう
ふたりの好きな曲を低く流して
目を閉じてゆっくりと


まぶたには昼の月
いつかみたいに
力をこめて抱きしめてちょうだい

水の中を・・・

11月から始めた水泳がなかなかいい感じで続いている
ときおり泳げない事情が続いて久しぶりになることはあるけれど
いく時には楽しみだし思い出したらその続きから始められる
当初は25メートルホントに泳げたのかと心配だったけれど
いまはまぐれではなくそこまではクリアと言えてると思う


先日のこと
いつものようにセンセイのレッスンを受けようと思ったら
第五週にあたるというのでクラスはお休みだった
せっかく来たのでとりあえずプールに入ることにする
黙々と25メートル往復を重ねる
どうも考えるに歩いているひとと変わらないスピードのよう
でもまあいいの、無理は禁物
続けることに意味があるのさ、と淡々と8往復ばかり


と、そうだ
もうすこしローリングと手を伸ばすのやってみようと
右で息継ぎをするときの左手はどうしてもじたばたしてしまう
でもからだだけ左側に傾ける時の右手はけっこう伸ばせるね
左手はゆっくりと水の外へと出せる
そんなこんなを考えながら泳いだらなんとなく25メートル泳いだあと
いつもと違って息も上がらずとても楽な気がした
んん?なんか気持ちいい?(笑)


水の中へと足で蹴って進むので最初の5メートル
まもなく最後の5メートルのテープを息継ぎの横目で見る
ひといき頑張ればゴール
なんとなくねその間の15メートルがとても楽になったの
ぜったいタイムも早くなってる
ま、いままでのタイムが♪歩く速さで〜ですけどね(笑)


調子に乗って予定時間超過してでももうすこしやっちゃおうか!
とも思ったけれどそのあとに仕事もあったことだし
過ぎたるは及ばざるがごとし・・と自分に言い聞かせて
きょうのところはこれくらい、と切り上げました
とりあえず16往復800メートル
プールに入っていたのは1時間もないくらいだけれど
いつもの二クラス2時間弱で泳ぐ距離よりはいってると思う
自分としては
「このあたしがだれにいわれるでもなくただ黙々と泳ぐなんて!」
と、ちょっと前には想像できないことをしてるのが面白かった


泳いでいるときには
およいでいることに関してしか考えてない
それもこのごろようやく自分がどんなことをどんなふうにしているか
すこしだけ自分で感じられるようになった程度
キックのリズム、腕の動かし方
右からひだり、左から右へとうつっていく体の感触
軽くできてるな
ちょっと疲れたかな
あ、集中力途切れたら動きがいい加減になる
ふむふむ、まだ相当考えて体を動かしてるわけね


そして端まで泳いで立ち上がった時の蘇る音
我にかえったような
色がもどった写真のような
非日常から日常へと戻るような


ああ、これも小さな旅なのかしら?
短い短いなにかを探しにでかける旅
いつもとはちがうものに出会える旅
緊張してちょっぴり疲れて
それでもなにかを見つけてにんまりして帰ってくる
それを想うとワクワクして
それを振り返るとちょっぴりきゅんと幸せになれる


さあ
また次はどんなものにどんな自分に出会えることやら・・・

三月十一日に

http://d.hatena.ne.jp/nadeshiko1110/20100901/1283358936


ああ、今日か・・
起きたらそう思って
天気を確かめた
あの場所は晴れているのだろうか
風は吹いているのだろうか
その地に立つ人はなにを思うのだろうか


私にとっては三月九日が母の命日
そして今日は結婚記念日
どちらも忘れられない日
そしてその数日間は胸が締め付けられる


朝ご飯を食べながら新聞を開いて
なんの気なしに読んでたら古今和歌集の話
あら、大宰府の博物館であってるやつ、これは見に行かなきゃ
それつながりで本棚を見ていたら
ふと目についた「空の色に似ている」
日の当たる縁側でほんのすこしだけ開く
疑問符が感嘆符へ
もういいかと思った想いがまたもう一度よみがえる
こころはこんなに変わりやすく揺れやすい


折々に誓った想い
節目節目に立てた願い
いまわたしはちゃんとできているだろうか
すこし早めに感じた春に
動き始めてちょっと転んで
ようやくもういちど出直そうと思っていた昨日今日


そうしようと思ったことをあきらめないことは
自分との約束を守ってあげるということですよ


いつか聞いた言葉が鳴り響く


大切なのは動くこと
自分が動きたいと思った時に
あきらめなくていいように準備しておくこと
それが自分にできること


そう
自分にできることは
しなくてはいけない
と、
今日のこの日に書き記しておこうと思う



いつか
優しい気分を支えられるつよさを
ずっと持てるように

春は

思いがけない強い香りに驚く
満開の梅の花
それも可憐な白梅が
記憶の奥深くまで染み込みそうなほど


桜はもう待ち構えている
すこし憂鬱の気配を混ぜたピンク
もうガウン一枚を残すのみ
緩む空気を震わせながら
今年もこころを奪うのだろう


春は巡ってくる
いつものとしと同じように


それでも
もう帰らないものもあれば
今年初めて知るものもある
こんなにとしを重ねたというのに
ひとつとして同じ景色は思い出せない


まだ見ぬ初めての春よ
どうぞ優しくして頂戴
わたしと
わたしが大切に思うすべてのものに
まだ出会っていないたいせつなものすべてに

手離す

天気のいい昼下がり
靴を捨てた


もう未練はない
悲しい思い出も一緒に忘れる


雨にけむる街並み
目の前で閉まるドア
無くなった予定
無くした時間


ぜんぶ靴のせいにしてしまって
葬るように白い薄紙に包んで処分する
ちいさな靴は萎れた花束のように
こときれた鳥のようにぐったりと横たわる
柔らかな花びらのようなその皮のかざりも
華奢なヒールもストラップも
みんな眠るように静かに目を伏せている


本当に悪かったのはわたしだといまでは分かる
それでもそれを認めることはやっぱりできない
それはそのときの自分には必要だったのだと
時折壊れそうになるこころを抱えながらつぶやく


もういい
もう大丈夫だから


月夜の数時間の早回しの画像を見た
輝く月が翻るように動いていった
毎夜のぼり沈む月は花びらが舞い散る様
または
踊る手の先に持つ扇子の動きさながら
あれから幾晩月を見た?
あれからどれだけ扇を掲げた?
・・たぶん、一曲舞い終えたあたり
永く感じた年月も
繋ぎ合わせればその程度
さあ
扇子を置いて深々と頭を下げ終わりを告げよう



ひとつこころから手離す

ジグゾーパズルのように

スイミングのレッスンはいまのところ
三人の先生から習っていることになる(ひとり増えた)
おなじことを習っていてもみんな違う
手の掻き方ひとつとっても???となる
おまけに教え方も様々
手取り足取り直してくれるひともいれば
呼びとめて伝えてくれるひと
説明をくわしくしてくれるひと
考えすぎると分からなくなってしまうこともあり得るほど
それでもそれを分からないまま並べて眺めるように考えていると
ときどき繋がるピースが見えてくる
そう、ジグゾーパズルみたいにね


人生の中でもそういうことってあるなあとこのごろ特にそう思う
分からなかったこと、不思議でたまらなかったことが
いつかするりとその意味を表し、ある日すとんと腑に落ちる
あぁ、あのときのあのことは
きっといまのこのためのレッスンだったのだと


いつか綺麗な絵のようにものごとは理をあらわすのだろうか?
それともそれは大きすぎて
いつまでたっても出来上がらないまま
分かったような気になってはまた悩むのだろうか?


まあいいや
泳ぐことも
生きることも
まだまだきっと楽しくなる
そう思えるのだもの