撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

手離す

天気のいい昼下がり
靴を捨てた


もう未練はない
悲しい思い出も一緒に忘れる


雨にけむる街並み
目の前で閉まるドア
無くなった予定
無くした時間


ぜんぶ靴のせいにしてしまって
葬るように白い薄紙に包んで処分する
ちいさな靴は萎れた花束のように
こときれた鳥のようにぐったりと横たわる
柔らかな花びらのようなその皮のかざりも
華奢なヒールもストラップも
みんな眠るように静かに目を伏せている


本当に悪かったのはわたしだといまでは分かる
それでもそれを認めることはやっぱりできない
それはそのときの自分には必要だったのだと
時折壊れそうになるこころを抱えながらつぶやく


もういい
もう大丈夫だから


月夜の数時間の早回しの画像を見た
輝く月が翻るように動いていった
毎夜のぼり沈む月は花びらが舞い散る様
または
踊る手の先に持つ扇子の動きさながら
あれから幾晩月を見た?
あれからどれだけ扇を掲げた?
・・たぶん、一曲舞い終えたあたり
永く感じた年月も
繋ぎ合わせればその程度
さあ
扇子を置いて深々と頭を下げ終わりを告げよう



ひとつこころから手離す