撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

闇がふうわりと薄くなっていく

空気が煌めきの予感を孕んで動いていく

手のひらが熱い

肩先から胸元へその熱を映す様にすべらせる

凝り固まっていたものが解けていく

ちいさな痛みを伴って

頭の芯がくらくらする

闇の中にちいさな花火が幾千も弾ける

からだがひとりでに動く

誰に教わることもなく何に強いられることもなく 

息が苦しくなる

からだ全部を使って大きく息を吸いこむ

間に合わないように吐いてはまた胸を開くように吸う

温かさを抱くように腕をのばし光を求める

声が漏れる

懐かしい歌に似たかたちになる

思い出せない詩はそのままにただ音のみを響かせる

不意に鼻の奥がつんとなる

長いこと忘れていた

そうだ、泣いてもいいんだ

 

色が変わるほどにかじかんだ指先に

ようやく温みが戻る

それでも涙の方がまだ熱かった

 

視線の先に雪

鉢植えの赤い実と白が交差する

温もりの中でしばし見とれる心地よさ