撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

雑魚寝(ちりとてちん)

 「ちょっと思い出してしもうた・・おかみさんのこと」という
草々。喜代美の家族が民族大移動のように草若師匠の家にやって
きて、おかあちゃんのマイペースパワーが炸裂した夜。


 家族というもの混沌としている。理屈で割り切れないもの
利害関係では動かせないもの、愛情と呼ぶほどに純粋ではなく
それでも情がなくては到底やっていけないような、なんとも
理解しがたいけれど、それでも暖かい場所。時にうるさく迷惑で
時には静かでありがたい場所。


 おかあちゃんがマイペースで元気がいいと、何故かそんな場所が
わけわからんままでも居心地のいい場所になる。
「師匠さん、お酒ぇ〜」と、さりげなく食卓をつくるおかあちゃん
みんな、ずっとこうしたかったろうに出来なかったことが、その
ひとことで背中を押されたように、手をとられたように自然に
出来てしまう。もしおかみさんがいてくれたら・・・。


 「どんな長い仕返しや」と言われる草々と子草若のやりとり。
仕返し・・といいつつ、それも、意地っ張りとへそ曲がりの
コミュニケーションのひとつ。仕返しして、憂さが晴れれば
仲直りもできれば、赦し赦されることもできる。それもすべて
繋がりが途切れなければ・・生きていればこそのこと・・・。


 甘えることも苦労を掛けることも、家族の情の一部分。そのうち
仕返ししたり、愛情で赦したり・・であっただろうに、いなくなる
と、それも出来なくなってしまう。先立つことは一番長い仕返し
になるのか・・。それが仕返しだったのか、もうすでにその愛で
赦していたのかすらも分からないこと・・・そしてそれに答えられ
ないこと、その愛情にありがとうさえいえないことが何より苦しい。


 親に先立たれると、子供のままに取り残される・・子草若の
母を想う気持ちが小さな男の子のようで哀しい。