撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

心の支え(どんど晴れ)

 夏美と彩華のシーン。もうわかっているんでしょう?とばかりに
彩華は今まで自分がどんなつもりで加賀美屋にいたのかを夏美に
ぶちまける。それは、もうどうしようもなくなった人が、すべてを
投げ出して相手に最後の攻撃をしているようにも見えるが、私には
どこか、夏美に自分のすべてをさらけだしているようにも見えた。
 まな板の上の鯉のように・・または、信頼する人のまえで泣き
じゃくる子供のように・・・。


 自分に残されたものは、父からもらったこの絵皿一枚だけだ・・
と。すべてをなくしてしまったのだと・・・。


 それまで味わったことのないような苦労をしながら、いつか故郷に
戻り、女将になることだけを心の支えにしてきた・・と。心の支え
・・のところで、柾樹がでてくるかと思ったら、絵皿・・でした。
この皿を見ていると、家族揃って幸せだったころのことを思い出す
・・と。絵皿かぁ・・柾樹じゃないんだ・・なら、夏美に対する
あの想いもそんなに根深いものではないよね・・と安心したりして。


 彩華は、辛い中でも頑張っていたのだろう。しかしながら、その
つらい日々を耐えるうちに、心の支えはじりじりと煎られ、焦げ付き
苦く、硬く、その姿を変えていったに違いない。もともとは何の関わり
もない幸せなひと(たとえば夏美)を、ただ幸せだというだけで
許せなくなるほどに・・・。


 淋しさや悲しみを、憎しみかと思えるほどの強いエネルギーに
変えることによって、必死で自分を支えて、何とか前に進んできた
のではないか?彼女は、不幸に流されることも、困難に押しつぶさ
れることもしなかった。それは、多分、彼女のプライドが許さなかった
から・・・。憎しみや意地という固い鎧をつけることによって、本当の
自分を必死で守ってきたのではないだろうか。


 彩華が気づくのはいつだろう?その強いプライドは、親から大切に
守られて育って来たからこそ持っていたものだと。そして、彼女が
持っている、その教養、立ち居振る舞い、お茶・お花などの心得、
出来そうで出来ない女将にも相応しいお客さんへの対応、そのどれもが
自分ひとりで身につけられるものでも、何処の誰でも身につけられる
ものではないということ。何もなくなってしまったかに見える彼女だが、
小さい頃からの、彼女が家族の中で育んできた、得難い様々なものは
決して彼女から離れないし、裏切らない、彼女が家族からもらった財産
だということ・・・。


 夏美は彩華になんと声をかけるのだろう?すべてを吐き出した彩華を
どのように受けとめるのだろう?夏美がいつも惜しげもなくまわりの
人々に振りまいている、その暖かいものが、空っぽになった彩華の
心に、優しく染み渡りますように・・・と祈らずにはいられない。