撫子の花びらたち

すべての出会いは幸せのためであってほしい

春香る・・

 起きたらなんとなく暖かかった。緊張がほどけるような暖かさ
だった。季節が完全に変わったんだな・・と漠然と思う。


 季節の変わり目は、なんだか懐かしい気分がする。懐かしい曲を
聴いて思い出が蘇るように、なんだか新しい季節が始まるというのに
これまでの季節の思い出が一瞬自分のまわりにまとわりついてくる
ような不思議な瞬間に襲われる。今日はそんな気分。昨日から・・
だったかな?


 まどみちおファンのミュージシャンと、以前音楽についてくる記憶
については話したことがある。視覚よりも聴覚の方がより原初的だから
と・・。それから言えば、嗅覚もまた視覚よりそうなのだろう・・。
言葉に出来ない度合いがますます強い。身体のなかに眠っているなに
ものかを揺り起こし、呼び覚ますような力がありそうだ。懐かしく
畏ろしいなにか・・・。ああ・・それでも、音楽よりも匂いのほうが
より優しいような気もする。哀しくも、ひとと共有できないほどに・・。


 長男がたまに強いトワレ(かなにか)を匂わせることがある。そんな
つけ方は邪道だ!と何回もいうのだが、つけてない!といいつつプンプン
で、バレバレ。おしゃれなつけかたをしらない・・ということもあるけれど
だれがつけても同じ香りになるほどにつける・・というのは、ある意味
自己主張ではなく隠れミノなのかもしれない・・などと思い当たる。
 シャワーを浴びてまっさらになったとき、ラグビーのあとに汗まみれで
車に乗るとき、それは、自分を見せてもいいと思っている、安心している
空間なのかもしれない・・などと、ふと思った。


 今年の春には、また新しい記憶を付け加えることができるだろうか?
はじまりを感じさせる、気だるく、甘い、風の吹く朝だった。